ニーヤの涙
■ハンス(仮名)は瑠歌の後ろについて歩いていた。
「瑠歌、姫さまの“封印”、解けるの?」
「あたりまえよん。
アタシは天才魔術師なのよん〜」
「でも姫さま、しばらくはいいって!」
割ってはいった飛び猫に、ハンス(仮名)は首をかしげた。
「なんで? “封印”が解ければ、いろいろ楽しいことできるのに…」
「だからよ。
あんたにこれ以上イロイロされたら、たまったモンじゃないわ」
「ボクはただ、もっとお話ししたり、一緒に散歩したり、一緒にご飯たべたり…いろいろできるっていう意味で……」
「それだけじゃないでしょ?」
「他になにがあるの?」
飛び猫・ニーヤは途端に真っ赤になった。
「……い、イロイロ…」
「むふっ。イロイロだって。
飛び猫ったら、ナニ考えてるのかな〜」
「う、うるさいわねっ!」
かしましくジャレあう、ハンス(仮名)とニーヤ。
「……」
いつのまにやら置き去りの瑠歌は、憮然とふたりを見ていた。
■入り江に戻ると、瑠歌はふたりに振り向いた。
「さて。
そんじゃ、はじめましょん」
「なにを?」
ニーヤは瑠歌と共に目眩を覚えた。
「……治療よ。
あんた、今まで誰のために苦労してたと思ってるの?」
「そ、そっか。そうだったね」
笑ってゴマかすハンス(仮名)。
もーほーさんの悪夢など、すっかり忘れているかのようである。
「え〜と。それで?
ボクはどうしたらいいの?」
看護婦姿の瑠歌は腰に手をあて、無害な微笑を浮かべた。
「まず服をぬいで。全部ん〜」
「う、うん」
「パンツもねん」
「こ、これでいい?」
いわれたとおりに真っ裸となったハンス(仮名)は、貞操帯の上から手で前を隠していた。
「それもとらなきゃねん♪」
瑠歌がパチンと指を弾くと、股間の鍵がはずれて、ポトンと貞操帯が落ちた。
「きゃ!」
と、ハンス(仮名)は女の子のような悲鳴。
「そしたら、そこに座って。
翼がある猫に、おちんぽを舐めて、勃たせてもらうのん〜♪」
木陰に腰を降ろしたハンス(仮名)は、目をパチクリ。
「翼がある猫って……」
「あ、あたし?!」
ふたりに目を向けられ、ニーヤは困惑の声をあげた。
「そうよん。
大丈夫ん、猫の体にもーほー茸は効かないから」
「イヤよッ!
なんであたしがそんなことするのよッ!」
「いい? この“白衣の天使”はね、ありとあらゆる難病の治療法を、教えてくれるアイテムなのよん。
それを着たアタシがいってるのん。
信じられないのン〜?」
「だ、だって…だからって……。
ほ、他の猫よんでくるッ!」
「だめよん。
診たところ、ハンス(仮名)はもう危篤状態だわよん。
いつ狂い死にが始まるか、わからないわよん〜」
瑠歌の言葉はニーヤに、膝を抱えたハンス(仮名)を思い出させた。
『ニーヤが、毛むくじゃらで筋骨逞しいもーほーさんに見えるンだよぉ〜ッ!』
たしかに瑠歌のいうとおり、ハンス(仮名)はいつ狂い始めてもおかしくない…かも…だが…。
「いいのん?
他の猫を捜してる間に、ハンス(仮名)が死んじゃっても?」
「で、でも……」
くちごもるニーヤは、ちらちらとハンス(仮名)を見た。
ハンス(仮名)は事態についていけないのか、ポカンとしていた。
「アタシは別にいいのよん? でも――。
泣く人がいるのよねん? 死んじゃったら…」
瑠歌が意地の悪い微笑を浮かべる。
「そうよね、ハンス(仮名)?」
「え? ……そ、そうかもね…」
判然と頷くハンス(仮名)を、ニーヤは少し恨めしく思った。
しかし、他に手だてはないのである…。
「……わかった。
わかったわよ!!
舐めればいいんでしょ、舐めればッ!」
ヤケになって叫ぶニーヤに、瑠歌は忍び嗤い。
「フンっ!」
への字ぐちのニーヤは、ハンス(仮名)の股間に近づいた。
そしてじっと、元気ないおちんぽと対峙する。
まるで、眠るオロチに立ち向かうのようである。
「ね、ねぇ、ニーヤ…? …イヤなら…その…」
「いいのよ、あたしはッ!
あんたは黙って、あっち向いてて!」
おちんぽから目を離さずいわれると、ハンス(仮名)は頷くよりない。
「う、うん……」
「こっち、見ちゃダメよ……」
「うん」
ハンス(仮名)のソレは、もーほー茸のように赤黒くなっていた。
強烈なイカ臭さから、ニーヤは顔をしかめる。
かすかな震えをおびて、小さな舌が、ゆっくりと近づく…。
「ぺろっ」
意を決したように、舌先がおちんぽの先を舐めた。
「ひゃっ!」
ザラッとした感触が、ビクンッとハンス(仮名)を飛び上がらせた。
「黙ってッ!」
「ごめん……」
ミルクを飲むように、ニーヤが赤黒い亀頭部を舐める。
ぴちゃ…、ぴちゃ…。
静まり返った中に、舌使いの音だけがする。
かすかな波音も消え去り、まるで全てのものが耳を澄まして、注目しているかのよう。
それがかえって恥ずかしく感じるのか、ニーヤの頬がうっすらとさくら色に染まり出す。
「…ねぇ……どう?」
ザラザラとした舌の快感に、ハンス(仮名)は身を震わせるが、下脳はいっこうに反応しない。
「どうって……その……」
「もっと舌を使わなきゃ〜」
ニヤニヤ嗤いながら、瑠歌がいう。
「おそるおそるじゃ、蚊がとまってるようなモンだわよん〜」
「う…こ、こう……?」
ニーヤはべろんと、舌全体で舐め上げた。
「イ、イタッ!!」
ハンス(仮名)は我慢しきれず、思わず声をあげた。
ザラザラの舌では、さすがにサディスティックすぎる…。
「ご、ごめんなさい……」
ニーヤは、シュンと耳を垂れた。
「い、いいんだよ。
…そ、その……袋の方を舐めてみたら、どうかな?」
「キャハハッ!」
身を捩って嗤う瑠歌に、ニーヤはいっそうの恥ずかしさを覚え、逃げ出したい思いに駆られた。
しかし、ハンス(仮名)を治せるのは、自分しかいないのだ。
そう自分に言い聞かせ、なんとか踏みとどまる。
(でなければこんな…おちんぽを舐めるなんて…屈辱ぅ……)
ぞり、ぞり、と袋と舌が音を立てると、意地悪い忍び嗤いがまた漏れ聞こえた。
ニーヤは自分の目に、涙が滲んでるのがわかった。
「ど…どう? …ハンス(仮名)……?」
「…うん……気持ちいい……」
ざわめくような快感が、付け根から湧きのぼる。
しかしハンス(仮名)のおちんぽは、いっこうに起きあがる気配をみせない。
ニーヤは身を乗り出し、前足のひとつを付け根にのせた。
柔らかい肉球の感触が心地よい。
ニーヤは小さな体を前後に動かし、熱心に舐め上げる。
そのひたむきな努力にも関わらず、おちんぽはいっこうに反応しない…。
「ねぇ、なんでダメなの?
あたしじゃ、ダメなの…?」
ニーヤは惨めな気持ちでいっぱいだった。
これだけやってるのに…屈辱を我慢して、ハンス(仮名)の為に、一所懸命、おちんぽを舐めているのに…。
ニーヤは泣きベソをかき、ピクリともしないおちんぽへ、必死の奉仕を繰り返す。
「お願い、勃って…グス……。
…あたしを感じて……勃ってよ、お願い!」
「ギャハハハッ!!」
突然、こらえきれなくなった瑠歌が、大声で嗤いだした。
「そりゃ、ムリだわさッ!
いくらヤッても、ムリだわさッ!!」
嗤い転がり、身悶える瑠歌。
ニーヤの両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ムリ……?」
「無理無理、ぜ〜たっいッ、無理ッ!
猫に舐められて勃起したら、ヘンタイだわさっ!!
そんなことしたって、治るワケないだわさッ!!」
「だ、騙したのねッ! 瑠歌ッ!」
「『勃ってよ、お願い……』。
キャハハハハハッ!!
ネンネのアンタが、そんなことまで言うとは思わなかったわサっ!!」
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