ビョーキのハンス(仮名)
■今日も日が落ちて、宵の口…
街から遠征したハンス(仮名)と飛び猫・ニーヤは野宿をしていた。
「……もぐもぐ」
ハンス(仮名)はうまそうに、野茸をほおばっていた。
「なに食べてるの? ハンス(仮名)?」
「まっ茸。はぐはぐ……」
その野茸の傘は黒っぽい赤。
形も仮性包茎のナニを思わせ、なんとも卑猥である…。
「これは“まっ茸”といって、美味この上なく、食べた者は精力絶倫になるんだ」
「へぇ〜、くわしいのね。見かけによらず」
「放浪生活が長かったからね。
食べながら覚えた」
「……へ?」
「おいしいのは、食べられるキノコ。
アタッタのは、食べられないキノコ。
これはおいしいから、食べられるキノコ!」
「……」
「いろいろ食べたよ〜。
目がグルグルまわるのとか、世の中がピンク色に見えるのとか」
「よく死ななかったわね……」
「ニーヤも食べる?
おいしいよ〜……イカ臭いけど」
「す、捨てなさいよ。
毒キノコだったら、どうすんの?!」
「大丈夫だって。ボクが信じられないの?」
「し、知らないからね、あたしッ!」
■ハンス(仮名)は娼館で、りりんに洗われていた。
「……ハンス(仮名)」
りりんが不信な顔で、ハンス(仮名)の股間を見つめる。
「今日は元気ないのね…」
「ん? そんなことないよ、ホラ」
と、力を入れてみるも、おちんぽ様はくんにゃり…。
「あれ? ……ホントだ。
ねぇ、おっぱいで摩ってみてよ」
りりんは柔らかい胸で小さいままのおチンチンを包むと、揺り起こすように揺さぶった。
「……ダメ。
自信なくしちゃうわ……わたし…」
「変だな……まっ茸食べたのに……」
そういって、ハンス(仮名)が自分でさわると……ムクッと思い出したように、おちんぽ様は起き出した。
「あれ?」
「ハンス(仮名)、今なんていったの…?
まっ茸、食べたとか……」
「うん。食べたよ。
イカ臭い新鮮なヤツ」
「きゃあッ! きゃあッ!! きゃあッ!!!
誰か! 誰か、消毒薬をッ!」
りりんは似つかわしくない悲鳴をあげ、湯殿を慌てて飛び出した。
「りりんにナニしたのよッ!」
「ぐぎゃっ!」
飛び猫がただならぬ様子を聞きつけ、ハンス(仮名)に跳び蹴りを喰らわせた。
「なにすんだよ、もう…。
きっと、まっ茸の威力にびっくりしただけだよ」
「それ、まっ茸じゃないわよ、ハンス(仮名)」
タオルで手をふきふき、りりんが戻って来た。
「もーほー茸よ」
「もーほー茸…?」
「そ。
傘は黒っぽい赤、苛性包茎のおちんぽみたいな形で、イカ臭かったでしょ?」
「うん」
「もーほー茸はまっ茸に似てるけど、猛毒をもってるのよ。
食べた者は、男じゃないと勃たなくなるの」
「またまた〜。冗談ばっかり〜」
「ほんとよ。
その証拠に、わたしみたいな美女に触られてもなんともなかったのに、自分でやったら勃ったじゃない」
「…………」
いわれて、ハンス(仮名)の顔から、ゆっくり血の気が引いてゆく。
「ウソォォォォォォォッ!!!!!!!!!」
「ほうら、見なさい。
変なモノ、拾い食いするからよ。
これで一生、女の子とはサヨナラねっ!」
いい気味とばかりに、飛び猫・ニーヤは鼻で笑った。
「イヤだァァァァァァァァッ!!!!!!!
そんなの、イヤだァァァァァァァァッ!!!!!!!」
この世の終わりとばかりに絶叫する、ハンス(仮名)。
その気持ちは分からなくもない。
「いい気味じゃない。
ねぇ、りりん」
ニーヤがりりんに微笑む。
「それが、そうもいかないのよ。
ほうっておくと、“もーほーさんがイチャついてる”っていう幻覚に襲われて、狂い死にするの」
「イヤだァァァァァァァァッ!!!!!!!
そんなの、イヤだァァァァァァァァッ!!!!!!!」
床に転がり、ハンス(仮名)は半狂乱。さすがのニーヤも、微妙な面持ちである。
「い、いい気味よ。て、天罰だわ」
「でも、ちょっとかわいそうね…」
「イヤだァァァァァァァァッ!!!!!!!
そんなの、イヤだァァァァァァァァッ!!!!!!!」
「うるさいわねッ! もうッ!」
転がりのたうつハンス(仮名)を、ニーヤは叱り飛ばした。
「……だって…だって……グスン……。
……スン……スン…ウエン……グスン…グスン…スンスン…」
絶叫を止めるとハンス(仮名)は、今度は部屋の隅ですすり泣き。
まるで梅雨の長雨である。
「ああ、もうっ! うっとおしいわねッ!!
なんとかならないの、りりん?」
「そうね……
「ほ、ホント? その人なら、治してくれるのッ?!」
「ええ」
「瑠歌って……白イルカの瑠歌?
だ、だめよ、それはっ!!」
「でも、それ以外に治せる者はいないわ」
「でも……」
捨てられたポチのような、ハンス(仮名) の目。
ニーヤは仕方なしの溜め息をついた。
「……わかったわよ」
りりんは同情するように苦笑を漏らした。
「瑠歌なら、水平線の入り江にいるはずよ」
「水平線の入り江ッ!
じゃ、行こう、さっそく行こう、すぐ行こうッ!!」
飛び猫の首根っこを掴み、ハンス(仮名)は服も着ずに飛び出す。
「あ、それとハンス(仮名)。
そのビョーキ、ソコに触った人にも移るから。
治るまでココに来ちゃダメよ?」
走るハンス(仮名)が凍りつく。
「……グスン……スン……」
ハンス(仮名)は膝を抱え、再びすすり泣きを始めた…。
[ Prev: インターミッション ] - [ FrontPage ] - [ Next: 入り江の瑠歌 ]