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マーメイド01-1




【@右巻きソフトウエア】 「初・体験教室」 「初・体験倶楽部」 「怖くない怪談」 「ないしょのえろカタログ」

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◆娼館の“りりん”


■ハンス(仮名)はさっそく、娼館へ来ていた。

 長旅の汚れもあるし、“りりん”という者への興味もあったのである。
 おそらくりりんの娼館は、街でも一番の高級娼館であろう。
 いや。ことによったら、周辺諸国一かもしれない。
 それは館の風情からして、そこらの売春宿とは、雲と泥、天国と地獄ほどのひらきであった。
 これほど凝った建物は、諸国を放浪していたハンス(仮名)も目にしたことがない。
 館の中では、どんな天使が待っているのか…。
 どんな高等技術(高等テクニック)で、天国まで導いてくれるのか…。
 館の風情はオトコの興味を、ひどく掻き立てるものであった。

 ハンス(仮名)は扉を開ける前に、お目付役である、飛び猫・ニーヤを伺いみた。
「えーと…。いいの? ニーヤ?」
「なにが?」
“姫さまだけを愛する”
 そう約束した舌の根も乾かないウチに、娼館へ来たのである。
 事情を理解しているにしても、お目付役としては止めるなり、厭味のひとつもあるかと思うのであるが…。
「ココ、娼館だよ?」
「知ってるわよ。
 男が人魚に、体を洗ってもらうトコでしょ?」
「えっと…」
 間違ってはいないのであるが、ニュアンスがちがう気がするのである。
「まったく…。オトコって、どうしょうもない生き物よね。
 満足に自分の体も洗えないんだから」
 ニーヤは前足を、ペロッと舐めた。
「早く入りなさいよ。
 体を洗ってもらうだけのことで、なに緊張してんのよ」
「あはは。だよねぇ〜」
「莫っ迦みたい!」
 どうやら、勘違いはそのままにしておいた方が無難なようである。
「ついでに、ひとついっておくわ」
 苦笑いのハンス(仮名)に、ニーヤはすまし顔で付け足す。
「あたしのことは、名前で呼ばないように。
 特に、誰かがいるときにはね」
「いいけど…、なんで?」
「知らないヤツに、名前で呼ばれるのが好きじゃないの。
 勝手に毛並みをイジくられたみたいに、ムシズが走るのよ」
 そういうとニーヤは、体をブルブルっと震わせた。

■扉を開けると、ひとりの人魚が微笑んでいた。

「いらっしゃい」
 深い色の長い髪に、気だるげな瞳。
 ミステリアスな印象の美しい人魚である。
「わたしは、りりん。
 原罪の母・地獄の女王・リリスの娘よ」
「それじゃ、ここは地獄なの?」
 ハンス(仮名)の軽口に、りりんはクスリと微笑んだ。
「この間、牧師さんがそういって来たわ。
 でも出ていくとき、『ここは天国だ』っていってたわよ」
 りりんは、魅惑的なウィンクをつけたした。
「あはっ。いいとこなんだね〜」
「ええ、イイところよ。とっても」
 りりんはなかなか、知己に富んだ女のようである。
 これなら娼館を任されても当然であろう。
 微笑むりりんは、見れば見るほどの美女であった。
 聡明そうな額には、娼婦らしからぬ高貴な気品があり、涙ボクロと艶ボクロは実年齢以上の色香を漂わせていた。
 下半身は人魚のままであったが、上半身はあられもないセクシーなブラのみ。
 白い肌と豊満な胸は、とても触り心地がヨサそうで、見ているだけでオトコを奮い勃たせる。
 と。ハンス(仮名)は股間の狭苦しさで、貞操帯の存在を思い出した。
「あ〜……鍵を借りてくるの、忘れてた…」
「どうかしたの?
 うふふ。珍しいモノつけてるのね」
 りりんはハンス(仮名)の股間を見ると、クスクスと笑った。
「滅多に見られないでしょ?
 まぁ、そういうワケなんだ」
「うふふ。やっぱりあなたがハンス(仮名)だったのね。
 ギルドの御祖父さまから聞いてるわ。
 鍵を預けるから、イロイロと面倒みてくれって」
「いやぁ〜、イロイロだなんて…えへへぇ〜〜」
 ハンス(仮名)はデレデレ、クネクネ、身をよじらせ、それを見たニーヤはゲンナリな表情をした。
「でも、やっぱりって…?
 ボク、そんなに有名なの?」
 “放蕩王子”のウワサは、こんなトコにまで聞こえているのだろうか。
「まぁね。
 門の前を行ったり来たりしてるから。
 あの娘が気してたの。
 かわいい坊やが迷ってるみたいだって!」
 桃色の髪の人魚が、ハンス(仮名)に手を振っていた。
 ツラれてハンス(仮名)も、手を振り返していた。
「あの娘の方が好みだった?
 あなたがあんまりかわいいから、わたしが役を取っちゃったんだけど…迷惑?」
 ロビーには客待ちの人魚が何人かおり、行ったり来たりで躊躇っていたハンス(仮名)を、退屈しのぎにウワサしていたのだろう。
 どの人魚も美しく、かわいく、グラマラスからスレンダーまで、みな、目移りするほどの粒揃いであった。
 そして中でもりりんは、どびっきりの美姫のように見えた。
「ううん。そんなことないよ。
 あ。でも、あの娘がキライなワケじゃないよ?
 むしろ、好み――イタイッ!」
 ニーヤが足に噛みついていた。
「うふふっ。それじゃ、さっそくお風呂にする?
 それとも、お話する?」
「両方ッ!!」
「それじゃ、両方ね。
 あ、一応、ここの決まりだから、お金を払ってね。
 あなたは特別、半額でいいわ」
「お金、とるんだ…」
 財布の中身を思い出し、ハンス(仮名)は大好物を床に落としたような顔になった。
 結局、貞操帯の鍵があっても、今日は諦めざるをえないようである…。
「ここの“しきたり”だから。
 そのかわり、今日はサービスってことにしてあげるから。ね?」
 そういわれてハンス(仮名)は、泉から精霊が現れたように顔を明るくした。
 まったく現金なオトコの子である。
 りりんはまたクスリと微笑み、ハンス(仮名)に向かって、両手をひろげた。
「えっと…?」
「だっこ。
 お部屋までは、お客さまが運んでくれる“しきたり”なの」
「いい“しきたり”だね!」
 ハンス(仮名)はさっそく、りりんの脇に手を回し、りりんはハンス(仮名)の首にぶら下がるように抱きついた。
 柔らかく大きな胸がピッタリとくっつき、品の良い香水が鼻腔をくすぐる。
 美人にこんなことをされて、鼻の下が延びないオトコなどいないのである。
「イタイッ!」
 ダラしのない顔のハンス(仮名)に、再びニーヤが噛みついていた。
「なんなんだよ、もう…」
「あたしはロビーで待ってるから!
 さっさと済ませてきなさいよね?!」
「噛みつかなくてもわかってるよ。もう…」
「フンッ!」
 ニーヤはふくれっ面の頭を踏み台にすると、そのままカウンター・バーへパタパタ飛んで行く。
 お陰でハンス(仮名)は、りりんのうなじへ顔を突っ込んでしまっていた。
「うふふ。モテモテね、アナタって」
 りりんのクスクス笑いを聞きながら、ハンス(仮名)は少しだけ、ニーヤに感謝していた。
 不可抗力にせよ、りりんの香りを堪能できるのである。
 その香りはクチナシのように甘ったるく、股間をとても熱くさせる。
 ハンス(仮名)はそのまま、髪の香りをまさぐり、あるものを見つけた。
 白いうなじに、入れ墨のような文様…。
 それは普段は長い髪に隠れ、またりりんの美しさに邪魔されて、気づく者は滅多にいないであろうと思われた。
 一見して入れ墨にしか見えないが、不可思議な文様は、妙に心騒めかせるものがある。
 もしやこれが、集めるべき紋章であろうか…?
「ニーヤ、ニーヤ!!」
 はやるハンス(仮名)の唇に、りりんが人指し指をあてた。
「静かにね。他の人魚たちに、迷惑だから…」
 いわれてハンス(仮名)は思い出した。
 ミレニアムの伝説は誰もが知っている。
 しかし、その鍵である紋章のことは、知る者はとても少ない。
 そして紋章を狙う者は、なりふりかまわぬ野望を持つ者ばかりである。
 紋章のことが広まれば、それを持つ人魚に大変な迷惑がかかるだろう。
 いや。迷惑だけですむならよいが、命の危険さえあるやもしれぬ…。
 ハンス(仮名)はそう、ニーヤに聞かされていたのである。
「うるさいわね…ニーヤ、ニーヤって…。
 あたしはアンタのお兄様でも、兄チャマでもないってぇの」
 ニーヤはミルクの入ったコップを抱え、気だるそうにパタパタ飛んできた。
「コ、コレ、紋章だよね?!」
 声を潜めてハンス(仮名)が聞き、ニーヤは受付のテーブルに腰を下ろした。
「そうね。紋章だわね」
「幸先いいね! もう一個、集められたなんてっ!」
 小躍りせんばかりのハンス(仮名)。
 対して、飛び猫はまったく興味しめさず。
 ストローでもって、ズズッとミルクを飲み干した。
「どうしたの? ニーヤ?
 紋章だよ?」
「まったく、シアワセな男ね。
 見つけただけじゃない」
 いわれてみればそのとおりである。
 紋章はりりんの身体にあり、手に入れたワケではない。
 それに『集めて』とは頼まれたが、その『集め方』は聞いていなかったのである。
「じゃ、どうすればいいの?」
「知らないわよ」
 ニベもない飛び猫は、後足で小首を掻いた。
「そんなこといって、ホントは知ってるんでしょ?
 イジワルしないで教えてよ」
「知・ら・な・い」
「もう……。
 集めろっていったのは、姫さまなんだよ?」
「知らないわよ。そんなコト」
「ねぇ〜、ニーヤぁ〜」
 地団駄をふむハンス(仮名)。その耳元で、りりんが囁く。
「えっちするのよ…」
 それまで黙ってやりとりを聞いていたりりんが、ニッコリしていた。
「わたしが教えてあげるわ。
 紋章の集め方」
「りりんっ!」
 りりんのはっきりした声が聞こえると、飛び猫・ニーヤは文字どおり飛び上がった。
「姫さまなんでしょ? 集めろっていったのは」
「そ、そりゃ、そうだけど…」
 口ごもるニーヤを見て、りりんは可笑しそうに微笑んだ。
「ただえっちするだけ。
 娼館なんだから、なにも問題ないわよ」
「まぁ、えっちだけなら…て、なにソレ?!
 なんで娼館だと、えっちしてもいいワケ?!」
 ハッとしたニーヤは、いまにも噛みつかんばかり。
「だって、えっちするトコだもん」
「なんですってぇっ!!!」
 ハンス(仮名)がケロリというと、白い猫は真っ赤になって怒った。
「ニーヤ、知ってるっていってたじゃない〜」
「その名であたしを呼ぶな、このサギ師めっ!
 ていうか、いつまでりりんに抱きついてるのよっ!
 離れなさい、ケダモノっ!!」
「イタイっ! イタイってばっ!!」
 ハンス(仮名)の腕に噛みつく、ニーヤ。
 それでもりりんを離さない、ハンス(仮名)。
 事態はメチャクチャになるばかりである…。
「仕方ないわ。それじゃ、ハンス(仮名)とはえっちしない。
 御祖父さまにも、いいつけられてたしね」
「え〜〜〜〜」
 りりんがキッパリというと、ハンス(仮名)はこの世の終わりのような顔になった。
「でも、なんかの拍子に、紋章が移っちゃうかもね〜」
 ウィンクするりりんに、ハンス(仮名)は夜明けのように顔を輝かせた。
「りりん、アンタまさか…」
「あら。
 猫さんは、紋章の集め方、知らないんじゃなかった?」
「うぐ」
 飛び猫・ニーヤはもう、ぐうの音もでない。
「うふふ。心配ないわよ。
 わたしは人魚のまま、ハンス(仮名)と洗いっこするだけ。
 ね? ハンス(仮名)?」
「う、うん。そうだね。
 泡々になって気持ちヨクなるだけだよね〜」
「なに、鼻の下延ばしてんのよ、浮気者っ!」
「あぐっ!」
 ニーヤがハンス(仮名)の頭を叩くと、ポカンと、とてもいい音がした。
「それじゃ、猫さんも一緒する?
 お目付役ですものね」
「ば、莫迦いわないでちょうだい!!
 男と一緒に、お風呂なんて…」
 白い猫は顔を真っ赤に染め上げ、その毛並みはピンク色になった。
「じゃ、万事解決問題ナシね。
 行きましょ、ハンス(仮名)」
「う、うん…」
 ニッコリのりりんに即され、ハンス(仮名)はりりんを抱えて廊下を歩きだした。
「あ、ちょっ――
 ひ、姫さまに報告するわよ、ハンス(仮名)っ!!」
 ニーヤの声に、ハンス(仮名)は後ろめたさを感じたものの…。
 両腕の中で微笑むぬくもりは、それ以上の誘惑であった。

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