愛娘ッ! 許嫁ッ?!
どうやって人魚を
まずはひとりの少女を紹介せねばなるまい。
それは二つ目の紋章が集まる、ちょっと前のこと…。
■人魚姫の玉室。
眠ったままの人魚姫を見つめつづけ、ハンス(仮名)はとろ〜んと夢見心地であった。
「姫さまの寝顔、かわいいね…」
「ま、まあね」
ハンス(仮名)の隣で、飛び猫・ニーヤが鼻を高くした。
主人を褒められるのは、わるい気がしないのであろう。
「でも残念だなぁ…。
今日はお話しができると思ったのに…」
「そうね…」
人魚姫は“封印の眠り”という呪縛で、大半は眠ったままである。
眠った姫君と話しができるのは、唯一、飛び猫のニーヤだけ。
ニーヤを介して話しは伝わるものの…。
直接、言葉を交わせないのは、残念で仕方がない。
「でも、かわいい寝顔が見れるからいいかなぁ〜」
「うふふ」
ハンス(仮名)の無邪気な呟きに、思わずニーヤは微笑をこぼした。
「ホントに、かわいい唇だよね〜。
キスしたくなるよね〜」
「……」
「キスしたら、起きてくれるかな…?」
「……ちょっと」
「そうだよっ! キスしてみよう!!」
「や、やめなさいってっ!!」
いうが早いか、ハンス(仮名)はタコのような唇を人魚姫へ延ばし、飛び猫はキスをさせまいと、慌ててハンス(仮名)のマントを引っ張った。
「離してよ、ニーヤ!
ボクは姫さまの呪縛を解いてあげたいんだ!」
「キスしたいだけでしょ!
この色情狂っ!」
「ピアスがいってたよ!
王子さまのキスで目覚めるって!!」
「そんなワケあるかっ!
だいたいアンタは、“元”王子でしょうが〜っ!」
非力な男の子といえど、猫の力に負けるワケがない。
マントを掴む飛び猫はグイグイと引っ張られ、ジリジリと醜いタコ唇が、麗しい姫君の唇に近づいていく。
もはやこれまでか…という時、飛び猫が叫んだ。
「アッ!!
ハンス(仮名)の背中の上で、縞パンのメイド妖精が、スカートめくってリンボーダンスしてるわっ!」
「エッ?! ドコドコ?!」
急激に力の方向が変わり、ふたつの体はバランスを崩すことになった。
ハンス(仮名)の体が飛び猫に覆い被さり、そのタコ唇は飛び猫の唇へ向かう。
ヒッと青ざめた飛び猫は、ハンス(仮名)の体に押されて倒れ込んだ。
ところで言い忘れていたのであるが。
この部屋には人魚の姫君のために、小さなプールが設けられているのである。
そしてふたつの体の行き先は、そのプールであった…。
■ズブヌレの少年と猫は廊下を歩いていた。
「もう…アンタのせいで、エライ目にあったわ…」
ブルブルっと生乾きの毛並みを震わせ、飛び猫はボヤいた。
ポタポタ滴り落ちた水滴を、メイドさんがモップで拭き取る。
ハンス(仮名)の目は飛び猫ではなく、メイドさんに向けられていた。
「でへ…三つ編みメイドさん、かわいいなぁ…」
「少しは反省しろっ! この色ボケっ!」
ニーヤはミサイルキックを浴びせた。
「ぐぎゃっ!」
「きゃっ!」
堪らずよろけた体を、ひとりの少女が受け止める。
まだまだ幼い、可憐な美少女である。
垢抜けないながらも、その異国の旅装姿は、少女の可憐さを十二分に引き立てている。
少女はハンス(仮名)の顔を見ると、朝日のように顔を満面に輝かせた。
「ハンス(仮名)ッ!!」
名を呼ばれて飛びつかれ、ハンス(仮名)は心底、驚きの声をあげた。
「ス、スフィアッ?!」
「会いたかった、会いたかったよ〜ッ!」
頬を擦り寄せ、涙ながらに抱きつく、その様子…。
どうも、ただならぬ関係のようである。
「だれ、この子……?」
「え〜と、この子は――」
飛び猫は糸のような目を作り、ハンス(仮名)は頭をポリポリ。
少女・スフィアは飛び猫に満面の笑みを向けた。
「可愛い猫さん、こんにちわ。
あたし、ハンス(仮名)の一番の愛娘、スフィア!」
「ふぅ〜ん、ハンス(仮名)の娘……」
飛び猫はジットリ、不穏な眼差し。
「そんでもって、ハンス(仮名)の…
い・い・な・ず・け。
きゃはっ!」
ポッと赤らめた頬を、スフィアはかわいく両の手で挟んだ。
「ふ、ふぅ〜ん。い、許嫁ねぇ……」
飛び猫の爪が光る。
「捜したんだよ、ハンス(仮名)ッ!!」
スフィアは再び飛びつくと、ハンス(仮名)の頬にキスの嵐を降らせる。
「こんな子供にまで手を出してたか!
このロリコンめっ!!」
飛び猫はハンス(仮名)に飛びかかると、鋭い牙と研ぎ澄まされた爪を食い込ませる。
「ぎぃあぁぁぁぁぁッ!!」
廊下に響くは、ハンス(仮名)の悲鳴…。
まさに天国と地獄の光景であった……。
なにやら波瀾を予感させ、ハンス(仮名)には悪寒を抱かせる、美少女・スフィア。
しかし、そのドタバタ喜劇は、のちの悲劇。
いまは物語を、スフィアやってくる前に戻す…
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