待ってよ、白衣の天使-2
■“白衣の天使”を追って、館の庭へやってきた。
「たしか、この辺りに……」
「あれ、あそこよ!」
キョロキョロ、見回すハンス(仮名)に、飛び猫が指さす。
“白衣の天使”は、爺さんの背中にかかっていた。
「爺ちゃ〜んッ!」
走り寄るハンス(仮名)に呼ばれ、くるっと爺さんが振り向く。
「ハンス(仮名)……」
突如としてハンス(仮名)は、おぞましい悪寒に襲われた。
爺さんの瞳は、恋する乙女の如く、ウルウルであった。
「ハンス(仮名)ぅ〜ッ!!」
爺さんはそう叫ぶと、猛然とハンス(仮名)にタックルして押し倒した。
「ワ〜ッ!! いやだぁ〜ッ!
爺ちゃんのもーほーさんは見たくないぃぃぃッ!」
喚き暴れるハンス(仮名)に、爺さんは頬をすりすり。
「ワシがわるかったぁッ!
故国を追い出され、今までさびしかったじゃろ? ツラかったじゃろ〜?!
ギルドの立場があるとはいえ、ワシはかわいい孫に、なんと非道無慈悲だったことよぉ〜っ!!」
爺さんは懺悔をしながら、オンオン、頬ずり。涙ばかりか鼻水まで飛ばし泣く。
「あぅ〜! もーほー爺ちゃん、気色わるいぃ〜」
ハンス(仮名)は狂い死にの前に、気色わるさで殺されそうである。
「罪滅ぼしじゃっ!!
なんでもしてやる、なんでもしてやるゾい〜〜〜!」
喚き暴れるハンス(仮名)が、ピタッと止まった。
「…ホント?!」
「ほんとじゃッ! 今までの罪ほろぼしじゃッ!
なんでもしてやりたいんじゃ〜ッ!」
「じゃ……。
姫さまを自由の身にしてあげて」
いつものように色ボケたおねだりかと思いきや。
飛び猫・ニーヤは、じぃ〜ん、と胸が熱くなった。
「……ハンス(仮名)」
「あー、もちろん、ボクと結婚してからね」
ぱこんッ!
「あたしの“じぃ〜ん”を返せっ!」
「いいぞい、いいぞいッ!
なんでもしちゃるわい、可愛い孫のためじゃ〜ッ!」
ニーヤが思いっきりハンス(仮名)をなぐり、爺さんは頬ずり号泣。
そこへ一陣の風が吹き、“白衣の天使”が再び空に舞う。
「ハンス(仮名)ッ! “白衣の天使”がッ!」
「約束だよ、爺ちゃんッ!
約束したからね!」
念押しのハンス(仮名)に、爺さんは目をパチクリ。
「なにがじゃ」
「今、人魚姫との即結婚を約束してくれたじゃんッ!」
「なにをいうとるんじゃ、このクソガキは?!
それは故国復興資金が貯まってからじゃろうッ!!」
「あ〜ッ!! ズリィッ!」
ふたりが言い争う中、空高く彷徨う“白衣の天使”は、みるみる小さくなってゆく。
「ハンス(仮名)ッ!! いくわよッ!」
飛び猫にズリズリ引きずられていく、ハンス(仮名)。
「いつもそうなんだ、爺ちゃんは〜ッ!
自分に都合がわるくなると、いつもそうなんだ〜ッ!」
■見失った“天使”はどこへやら…
ハンス(仮名)とニーヤは館を出て、街中を走り回っていた。
「お〜い、“白衣の天使”やぁ〜いッ!」
「はぁ〜い♪ 待ってた? ぼ・う・や♪
な〜んて、出てくるワケないでしょッ!」
ぱこんっ! と、飛び猫・ニーヤはハンス(仮名)の頭にいい音をさせた。
「まったくもうッ!」
ニーヤにこづかれ、こづかれ、見失った“白衣の天使”を求めるハンス(仮名)。
このままでは、もーほーさんたちに看取られるのも確実。
泣きたくなるほど惨め……いや、すでに半泣きであった。
「お〜いっ!」
返事をするとは到底思えぬが、どうにも叫ばずにはいられない。
「“白衣の天使”やぁ〜いッ!!」
「はぁ〜い♪ 待ってた? ぼ・う・や♪」
「……」
ぽか〜んと、口を開けるハンス(仮名)とニーヤ。
現れたのは、看護婦姿のりりんであった。
「どう、これ? 似合う?
今日はなんだか、献身的なサービスがしたくなる思いなの…」
お色気タップリ、りりんが秋波を送ってくる。
さしものハンス(仮名)も異常さに気づき、タジっと後退った。
「な、なんだか、変だよ、りりん…?」
「そう? 分かるぅ? 変なの、あ・た・し。
とっても燃えるの〜。
うずうずうずって、献身愛がうずくのん〜」
「どうやら、タダの看護服じゃないみたいね…」
ニーヤは“白衣の天使”へ、不審の目を向けていた。
「ど、どうしよう……」
「早いとこ、脱がせるのよ。
アンタの十八番でしょ?」
「う、うん…」
ハンス(仮名)はりりんの、看護服のボタンを外し始めた。
「あん♪ ハンス(仮名)ったら、積極的ねぇん〜」
りりんは献身愛に疼き悶え。
はだけた看護服から豊かな胸が現れると、ハンス(仮名)はひどくドキンとした。
「ね、ねぇ、こんなことして、姫さま怒らないかな…?」
「莫迦ッ! さっさとやりなさいよ!!」
「う、うん。わかった!」
ギュッと目を瞑って脱がすハンス(仮名)に、ニーヤはポツリと呟く。
「……もう、なんでこんな時に気にするのよ」
■そんなこんなで、“白衣の天使”を手に入れた。
「まぁったく、世話が焼けるんだから」
「……」
「でも。なんとか“白衣の天使”も手に入ったし。
あとは瑠歌に解毒してもらえば、万事解決ね」
「……」
ハンス(仮名)は先程から返事もせず。
じぃっと、両手の“白衣の天使”を凝視していた。
「? どうしたの?」
「……これ。
姫さまに着せたら、どうなるかな…?」
「ば、莫迦なこと考えないでよッ!」
このところ柔らかくなったとはいえ、いまだ人魚姫には、なんとな〜く越えられない壁があるような気がするのである。
しかし、この“白衣の天使”を使えば……。
人魚姫は献身愛に疼き悶え、甲斐甲斐しく、甘〜い、ご奉仕してくれるのではなかろうか…?
「むふっ♪」
ぽわわ〜んと、桃色の妄想が浮かび、ハンス(仮名)の頬は緩んで、鼻の下は10センチほども延びていた。
「ちょっ、ハンス(仮名)?! やめなさいよッ!
ちょっとッ! そんなことしてる場合じゃないでしょッ!」
ハンス(仮名)を止めるニーヤであるが。
所詮は猫一匹、ずるずると引きずられてしまうのであった…。
■とりあえず、人魚姫に被せてみた。
人魚姫は“封印”で眠ったまま。
着せるのが無理ならと、被せてみたのであるが…。
「う〜む……。
なんにも起きない……」
「当たり前でしょ。
今は“封印”の時間なんだから!」
呆れ返るニーヤだが、ハンス(仮名)に諦める様子はない。
「ちゃんと着せないとダメなのかな?
うん。着せてみよう…」
「いい加減にしなさいよ、ハンス(仮名)ッ!
怒るわよッ! ほんとにッ!!
ぷりぷりぷりッて。だからぁ〜ッ!
オイタしちゃ、ダ・メ♪」
ゾワゾワゾワ〜っと、ハンス(仮名)は身の毛がよだった。
「ちょ、ね、ねぇ、どうしたの? ニーヤ?」
ニーヤの様子がおかしい…。
色っぽい流し目を送りつつ、すりすりとすり寄ってくる。
「きっと疲れが溜まってるのよね…、ハンスぅ(仮名)〜?」
「や、やめて、ね、ねぇ?」
情けなくもハンス(仮名)は、にじり寄り、這い上がってくる猫一匹に押し倒されてしまう。
「いつもひどいことして、ゴメンなさい……。
でもわかって、あなたのためを思ってのことなの…。
ハンス(仮名)ゥ…」
ゾリッと耳を舐められ、ハンス(仮名)は貞操を引き裂かれるような悲鳴を上げた。
「だ、だれか、だれか助けて〜ッ!!」
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