純情アクア
■アクアの背中には、腫れあがったいくつもの筋が作られ、ところどころ血が滲んでいた。
「ひどいな……。
こんなにされる前に、なんで逃げなかったの?」
「王子さまがいいなら、わたしはどうだっていいの……」
アクアがいつもの繰り言をいう。
しおらしい台詞も、この期におよんでは色褪せて聞こえた。
「“わたしはいい”なんて、ウソでしょ?
ガンスの怪我からいうなら、それは間違いだよ」
アクアはハッと、ハンス(仮名)を見つめた。
「そんなこと、…ないわ…。
わたしは、……王子さまが好きだから…」
「それじゃ、なんで、正銘を教えないの?」
「そ、それは……」
アクアの瞳が泳ぎ、失速したように伏せられた。
「わかってるはずだよ、アクアは。
ガンスが君のことを好いていないように、アクアもそうは思ってない。
最初はそうだったかもしれないけど、いまは違う」
そういうとハンス(仮名)は、アクアの背中に滲んだ血を拭うように舐めた。
「ウッ!」
アクアが痛みを堪え、短く呻く。
口内にアクアのしょっぱい血の味が広がると、それは甘美な倒錯の味に思えた。
「そうでしょ…?」
アクアは答えず、ほぞを噛んで背中の痛みを堪える。
囁きながら、ハンス(仮名)は紋章の傷に舌を這わした。
「痛いんでしょ? アクア…?」
「うッ!」
舌を這わせる度に、アクアが呻き声とも喘ぎ声ともつかない声をあげる。
「ごめんよ。もっと早く来ればよかった……」
「アぅん……!」
「ボクのせいだね。
ボクがガンスをけしかけたから……ごめんね、アクア…」
「はぁンッ!」
「だから、ボクのことを責めていいんだよ。
ボクが悪いんだから……」
「やめて……いたい……」
漏れ出た言葉は吐息混じり。
アクアの耳たぶは、いつのまにか紅色に染まっていた。
「かわいそうに……アクア」
アクアの火照った耳たぶを軽く噛む。
「ひゃんッ! く、くすぐったいわ……」
とくん、といったアクアの小さな脈動が、唇を通して伝わる。
皮膚に通う血の暖かさ、口に残る血の味…。
まるで生き血を啜っているような、倒錯した想像が頭に浮かぶ。
そのまま甘噛みを繰り返すと、アクアはビクビクと身を震わせた。
「…はぁん……ぃゃ…ハンス(仮名)……」
歌姫の甘い声が、下脳をくすぐる。
その声は激しく欲棒を疼かせ、股間をとても窮屈にさせる。
ハンス(仮名)はもどかしくスボンを降ろすと、股間を束縛している貞操帯を取り去った。
アクアは火照った頬の目の端で、それを捉えていた。
「…ハンス(仮名)……?」
戸惑いの呟きは、更なる愛撫を求めている。
「…アクア……」
脇から手を延ばし、とんがった乳首を、サディスティックにヨジり摘む。
「う……」
乳首の痛みでアクアの呼吸は一瞬止まり、ついで安堵と快感の吐息を漏らした。
「……はぁ。
わたし、なんかおかしい…。
とっても痛いのに……ンっ……すごくドキドキしてるぅ…」
「ボクのせいだね…ごめんよ…」
豊かな両の乳房を揉み上げると、アクアが心地よさげな吐息を漏らした。
ついで乳首をキツく摘まみ、乳房が円錐に変形するまで引っ張る。
「はんッ!」
吐息を呑み込み、アクアの瞼がギュッと閉じられた。
そのまま火照った耳たぶを責め舐めると、アクアは上り詰めるような喘ぎを漏らす。
「あっ、あっ、あっ…」
再び、両の乳房をいたわるように揉み上げる。
「ハァァ…」
アクアは苦痛から解放され、安堵ともつかない溜め息を震わせた。
切ない吐息、苦痛の喘ぎ、安堵の溜め息…。
いたわりの愛撫、苦痛の愛撫…。
アクアの身体は敏感に反応し、発する美声は肉棒の顎を撫でる。
まるで女体という、精巧な楽器のようだ。
ハンス(仮名)はアクアへの愛撫を繰り返し、美声を絞り出すことにしばし虜となった。
荒い吐息のアクアが、ハンス(仮名)の手首を掴み止める。
「ハンス(仮名)は……なんでやさしく…してくれるの……?」
アクアは澄んだ瞳を伏せ、か細く囁いた。
「ボクはやさしくなんかないよ。
こうやって、アクアを苦しめているんだもん」
アクアの体から染みだす、赤い媚薬に舌を這わせる。
「んくっ…そ、そんな……ハンス(仮名)は…わるくなんか…ない……。
…王子さまは…こんなこと、し…してくれませんでした……」
喘ぎ、喘ぎの息で、アクアがいう。
「……こんな、気持ちのいいこと…」
アクアは身体をハンス(仮名)に向かい合わせ、とろんとした目で見つめた。
ついでハンス(仮名)の頬を両手で包みこむと、紅色の舌を突き出し、鞭でできた傷に注意深くそれをつけた。
ズキンとした痛みが、ハンス(仮名)の呼吸を止める。
そして生暖かい舌が傷を辿ると、軽い痛みがゾクゾクっと背筋を震わせ、アクアの舌が離れると、ホッと溜め息が漏れるような安堵感が湧いた。
なるほど…確かに、妙に気持ちが昂る…。
ハンス(仮名)は震える吐息を漏らし、アクアは静かに瞳を閉じていた。
「首輪を……外して…」
ガンスの贈り物と、捨てられてからも、大切に身につけていた革バンドの首輪。
その意味も知らず、アクアの心を拘束していた、隷属の証。
「いいの…?」
アクアがコクンと頷く。
ハンス(仮名)は首輪の留め具を外しながら、ひどくドキドキとした。
着衣をつけないアクアが、唯一の身につけているものだからだろうか…?
まるで女の下着を外してる気分だ。
アクアの首輪を取り去ると、ハンス(仮名)は現れた白く細い喉、美しい胸元に目を奪われた。
そしてアクアから目を離さず、躊躇いもなく、首輪を海に放り投げる。
首輪は静かな水音を立てて海に没し、その音を聞いたアクアは、蕾が開くようにゆっくりと瞼を開いた。
「…わたしの正銘は……
「紫陽…?」
アクアは微笑み、コクリと頷いた。
「うつろいやすい紫色の花。
色や形がうつろいでも、それはあなたを楽しませるため。
わたしの心は、あなたのためにあるの」
アクアの澄んだ瞳が、囁く。
「王子さまのは、痛くてツライだけ…。
でもあなたのは、……痛いけどやさしいの」
アクアは、くすっと微笑った。
「変よね、わたし。
…あなたに……とっても…痛くして欲しい…そんな風に思うの…」
アクアの指先が、ハンス(仮名)の胸板を辿る。
そして股間に辿り着くと、肉棒に細い指を絡め、ゆっくりと摩り出した。
その強請るような手つきに、思わず溜め息が漏れ出る。
とても処女とは思えないそれは、ガンスに仕込まれたものだろうか…?
ムラムラとした欲望と嫉妬心を、ひどく掻き立てられる。
「ボクも変なんだ。
アクアにやさしくしてあげたいのに、痛くしてあげたいんだ……」
シャツを脱ぎながら、アクアの唇を求める。
アクアも欲望を隠すことなく、ハンス(仮名)の唇を激しく求めた。
ふたりは互いの唇を、甘噛みよりも強く噛み合い、滲み出る痛みと倒錯の快感を共有する。
そうしてる間もアクアは肉棒を摩り続け、ハンス(仮名)もそれに応えてアクアの乳房をイジメ続けた。
「ハンス(仮名)…月光石は…?」
「うん…あるよ…」
傍らのバッグに手を伸ばし、香炉と月光石を手触りで取り出す。
一時もアクアへの愛撫を止めたくなかったが、まだりりんのように手慣れたことはできない。
仕方なく唇を離すと、もどかしい気持ちで、りりんに教えてもらった通りに、香炉へ月光石をくべた。
月光石がぼうっと光、辺りを月明かりほどに照らし。
藍色の闇に、アクアの白い足が浮かび上がる。
「綺麗だね、アクアの足…」
アクアは太股をぴったりとつけ、恥ずかしげに手で股間を隠していた。
「もっとよく見せてよ、アクア…」
膝頭を撫でながらいうと、アクアは困ったように赤くなった。
「は、恥ずかしいわ…」
裸の胸はそうでなくとも、下半身を見られるのはとても恥ずかしいらしい。
奇妙な感性にクスリとすると、ハンス(仮名)はアクアに微笑んだ。
「それじゃ、海を見ているといいよ」
「海…?」
アクアは星明りの海に目を向けると、しばし戸惑い、こちらに背中を向けた。
そしてうつ伏せになると、丸い尻を高くあげた。
それが恥ずかしい“おねだりポーズ”と、アクアは知っているのだろうか?
アクアのズレた感性に、またクスリとした。
藍色の闇に浮かぶ、満月のような白い尻。
アクアの尻はプリンとまん丸で、大きいというより、肉付きがよかった。
尻肉を揉み分け、窄まった菊門、その下の性器をじっくりと観察する。
割れ目はすでにパックリと開き、太股に伝った愛液を月光石の灯が光らせていた。
「アクアのおまんこ、はしたないことになってるね」
割れ目を指で開くも、陰になってよく見えない。
月光石の香炉を引き寄せると、その光をテラテラ、紅色の秘肉が妖しく反射した。
闇に照らされる割れ目と紅色の秘肉。
その光景は、尻を向けたアクアのポーズと相まって、ひどく淫靡で、とても興奮を覚える。
「やっぱり、恥ずかしい…」
アクアは海を見つめたまま、居心地わるげに身じろぎした。
「でも、興奮するでしょ?」
「……ええ…とっても、ドキドキしてる…んくっ!」
中指を膣に指し入れると、ちゅぷっとその口は、愛液のヨダレを溢れさせて銜えこんだ。
アクアの中はとても熱く、愛液が充満している。
中指を出し入れすると、こぼれ落ちた滴が砂浜に点を作った。
「…はしたないよ…アクア…。
お漏らししたみたいに、お汁が溢れてくるよ…」
「……そんな…ハンス(仮名)が…うんっ!」
人指し指を加え、二本の指でアクアの膣内を弄る。
引っ掻くように掻き回す、少し乱暴な弄り方ではあるが、アクアは心地よさげな吐息を漏らす。
そして時折、指先が壁のようなものに触れると、かすかな呻きを漏らした。
「…いたい………でも、イヤじゃありません……」
「もっとシて欲しい…?」
「……」
アクアは恥じ入っているのか、ただ吐息だけを漏らす。
「どうシて欲しいの? 紫陽…?」
正銘を囁き、背中の傷を舐めると、彼女はビクンっと背をのけぞらせた。
「……シ、シて…おまんこの中、ぃ、イジくり回して…ハぅっ…」
その求めに応じ、ハンス(仮名)は二本の指で膣内を弄り、愛液を掻きだした。
アクアは出し入れを繰り返す度に、性器から愛液を溢れさせ、処女の壁を触れると、その度にビクンっと身体を震わせる。
そして、イジわるく指を止めると、恥じ入りながら愛撫を強請った。
「…あ…気持ちイイ…もっと、シて…シてください…。
…おまんこが…気持ちイイんですぅ…」
しばらくすると、股の下の砂浜は、愛液を吸ってちょっとしたシミを作っていた。
「…ぉ…おねがいです…。
う…疼くの……おまんこの奥が……じんじん…熱いの……」
真っ赤になって恥じ入り、その尻をサカッた猫のように、はしたなく揺らす。
「シて欲しいの?」
恥ずかしげに、アクアがうなずいた。
「…いいの? 痛いよ、きっと」
「痛くて……イイ……。
…やさしく…いたくして……お願い…」
赤くなった頬、潤んだ瞳を流し向けて、アクアは懇願した。
ハンス(仮名)にはそんなアクアが、とても可愛く思えた。
「うん。ボクもしたい。アクア…」
ハンス(仮名)が頷くと、アクアは丸く柔らかい尻をいっそう高くした。
“鋼鉄の処女”が紅色の口から、意地汚い涎を漏らしている…。
ハンス(仮名)の肉棒は、収まりどころを欲して、しばしそれを見つめていた。
肉棒に手を添えて近づけると、暖かい恥肉が鬼頭にキスをした。
「は、ぅん……」
漏れでた歌姫の溜め息に、ハンス(仮名)の下脳がくすぐられる。
堪らず一気に差し入れると、グッと拒む抵抗感に出会った。
「イッ!」
アクアの顔が処女の抵抗に歪み、ハンス(仮名)も感じたそれは、筆先よりも腰に響いた。
“鋼鉄の処女”は今だ健在、肉眼で確認、といったところか…。
(ピアスのヤツ、人ごとだと思ってぇ…)
“鋼鉄の処女”は魔力を使った、一種の封印。
アクアはまだ、封印を解くほど、自分のことを欲していないのだろうか…?
そう思うと、少し寂しい…。
ふとアクアを見ると、不安げな瞳を向けていた。
そしてそこから大粒の涙が、ポロリとこぼれた。
「大丈夫? アクア?」
処女の痛みは自分以上だろう。
怖じ気づいたとしても、仕方がない。
しかし彼女の言葉は、逆のものだった。
「…いたいけど……。
ハンス(仮名)が入ってくると…しあわせなの…」
むくむくと熱く、固くなる思い。
「ボクも…いたいけど、気持ちいい…」
「ハンス(仮名)も?
それじゃ、わたしたち、同じ気持ちなのね。
ひとつの気持ちを、ふたりで感じてるのね…」
アクアがそう呟くと、半ば入ったままの肉棒が、吸い込まれるような気がした。
ハンス(仮名)は、アクアに覆い被さるようにして、両手を彼女の脇についた。
「ボクの腕を掴んで。
痛かったら、ギュッと握っていいから」
「うん…」
アクアは頷くと、片手をハンス(仮名)の腕に添えた。
「いくよ…」
「うん…」
さきほどの抵抗を思うと、腰が引けるようにも感じたが、ハンス(仮名)は意を決して、ゆっくりと腰を動かした。
「う、……」
鋼鉄の壁に当たると、アクアが腕を力いっぱい握る。
そのまま我慢してアクアにのしかかるようにすると、プツっと突き破った感覚が鬼頭にした。
勢い肉棒がアクアの奥に届き、頭が真っ白になるほどの強い快感に襲われた。
「きゃぅんッ!」
アクアの悲鳴のような声を聞いたような気がした。
ハンス(仮名)は腰の動きを止め、吐息をつくと、しばしアクアのぬくもりに浸った。
「……動いて…だいじょうぶ…だから…」
絶え絶えの息から、アクアがいう。
「うん…」
さきほどの強烈な快感はなんだったのだろう…。
紋章を委譲される時のとはちがう、味わったことのない感覚だった。
ハンス(仮名)はゆっくりと腰を動かしはじめ、すぐにソレがわかった。
膣の奥にザラザラというか、そんな感じのトコがあり、それが鬼頭部にとても心地よい刺激をもたらすのだ。
堪らずハンス(仮名)の腰が、早く、力強くなる。
「…アぅ、……んクぅ……」
アクアが呻くような声を漏らし、強く腕を掴む。
「アクア…、いたい…?
ご、ごめんよ……でも…。
す、すごくイイんだ、アクアの……」
ズブっ! じゅぶっ! ジュプ!!
愛液を掻きだす水音が繰り返され、奥のザラザラを求めて、肉棒が膣内を行き交う。
「い、イイの…わたしも……。
あなたがイイから…わたしも、イイの…」
アクアの爪が腕に食い込む。
その痛みは、ハンス(仮名)のものであり、同時にアクアのものでもあった。
「…あン……い、…いたい……く、くぅん……」
腰の動きに合わせ、歌姫が可愛い声で啼き始める。
その声は甘く、堪える痛みを、切なく欲しているかのようだ。
「イイの……い、イイの……。
…奥に…おまんこの奥に、あ、あたって……ぃ、いたいけど…あン!」
アクアの爪間から、ハンス(仮名)の血が滲む。
それはアクアが感じている、肉棒の力強さ、快感の強さだ。
ハンス(仮名)もまた、共有する痛みに興奮を感じ、息を荒らげて、傷ついた背中を舐める。
「…あン……ああン……い、い、……いン!」
体中がとても熱かった。
アクアの内から湧きだす熱、膣内に充満する愛液の熱で、行き交う肉棒から溶かされる気がする。
もっと、もっと…、と愛液は湧き出し、ヌルヌルした膣壁とザラザラの奥をもとめ、突き動かされる衝動のままにひたすら腰を動かした。
ゾワゾワした射精感を感じると、突然、それは解き放たれた。
「イ!」
脈動を起こして熱い精液が放たれると、アクアの体が硬直し、背筋がピンと延ばされた。
抽迭をやめた肉棒は、幾度も脈動を繰り返し、アクアの奥へと精液を放つ。
そして背中の紋章が光り、ハンス(仮名)の背へ委譲されると、辺りは静かなさざ波と荒い吐息だけの空間になった。
■ハンス(仮名)とアクアは抱き合い、体温を確かめ合いながら、さざ波を聞いていた。
「ハンス(仮名)ッ!!」
静寂を破って、ガンスの怒声が響いた。
どこをどう走り回ったのであろうか…。
ドロだらけ、すり傷だらけ。乱れた髪には、木の葉や小枝がささっていた。
「き、貴様、よ、よくも…」
プルプル、怒り震えるガンスは、興奮しきって言葉がうまく出てこないようである。
「お、おまえもだ、アクアッ!!
僕を好いたとかいいながら、な、なんだこれはッ?!」
男の裏返った声というのは、なんとも見苦しいものだな…。
などと、耳に指を突っ込んで、ハンス(仮名)は思った。
「王子さま、わたしはもう、痛いのはイヤです」
燐とした声を発したのは、アクアであった。
「ハンス(仮名)さまは痛いけど、とてもやさしく、気持ちヨクしてくださいました。
わたしはもう、ハンス(仮名)さまのモノ。
ハンス(仮名)さまが、わたしの王子さまです」
アクアの言葉に、ガンスは硬直した。
言葉を捻り出そうと、口をパクパク、空いたり、閉じたり…。
そして突然、大きな声で笑いだした。
「ハッハッハッハーッ!
ハンス(仮名)、姫さまがこのことを知ったら、どう思うだろうな〜?
愉快だな、ハンス(仮名)〜!!
まあ、姫さまのことは、このガンスに任せてもらおうか。
ハッハッハッハーッ!」
一気にまくし立てると、白々しく笑いながら、ガンスは背を向けた。
「……コイツをなんとかしろ、ハンス(仮名)」
「ウウッ……」
飛び猫が牙を突きたてたまま唸り、ガンスの背中にぶら下がっていた…。
ハンス(仮名)は自分の背中に、戦慄を感じた。
「と、飛び猫、もういいんじゃない?」
飛び猫・ニーヤがパッと離れ。
「サッサッと消えなさいよ!
まだ噛みつかれたいの、この寝取られ男ッ!!」
と、ガンスのケツを蹴り上げた。
「あうっ!」
情けない声をあげると、堪らずガンスは走り出した。
「お、覚えてろよ〜」
定番の台詞は忘れないものの、笑いながら去る余裕はないらしい。
ガンスの姿が藍色の闇に消えると、ハンス(仮名)は腕の中のアクアを見た。
「いいの? アクア?」
「いいんです…わたしがいいのだから。
ハンス(仮名)さまも、いいでしょ?」
アクアは、はにかんで微笑み。
デレっとするハンス(仮名)は、背中に殺気を感じた。
「いいわねぇ〜、ハンス(仮名)。
モテモテじゃない〜♪」
飛び猫が鞭を打ち鳴らし、ニヤッと笑うと、鋭い牙が妖しく光った。
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