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マーメイド06-6




【@右巻きソフトウエア】 「初・体験教室」 「初・体験倶楽部」 「怖くない怪談」 「ないしょのえろカタログ」

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瑠歌と人魚姫


■ハンス(仮名)はげっそりであった。

 飛び猫・ニーヤに執拗に耳を舐め続けれ、ハンス(仮名)はまるで、生気を吸い取られた気分。
「ああ、怖かった…」
「あんたがわるいのよ、あんたがッ!
 あたしと姫さまは、感応しやすいんだからね!」
「だからって、あんなこと……想定外だよ…」
「だから、止めたでしょッ!!」
 口げんかをしながら、ハンス(仮名)とニーヤは入り江へ着いた。
 ハンス(仮名)たちを見つけた瑠歌が、浜辺へ寄ってくる。
「あら。見つけちゃったのね、“白衣の天使”。
 せっかくお坊さんの手配しといたのに、残念だわん〜」
「お坊さん?」
「見つかると思ってなかったからだわよ。
 もーほーさん、見れたでしょ?」
「……その話しはしないで」
 ウンザリのハンス(仮名)を見て、瑠歌はケケケッと底意地の悪い笑い声をあげた。
「ねぇ、瑠歌? “白衣の天使”ってなんなの?
 ただの看護服じゃないみたいだけど…」
 ハンス(仮名)の手から“白衣の天使”が浮かび上がり、瑠歌の真上へユラユラと漂う。
 おそらくは、瑠歌が魔法かなにかで引き寄せたのであろう。
「これはタダの看護服じゃないんだわよ。
 チン・ナイ・ゲーという、とても献身的な伝説の看護婦が着てたものなの」
「チン・ナイ・ゲー……」
 なんとも、背筋に寒いものが走る名前である…。
「これを着た者は、“なんでもしてあげちゃいたい〜”という欲望に駆られる、それはそれはおそろしいアイテムなんだわよん…」
「た、たしかに、おそろしかった……」
 ハンス(仮名)の呟きに、ニーヤはポッと赤くなった。
「でも…。
 アタシのような、偉大な魔術師が着ると、あ〜ら不思議〜♪」
 瑠歌はいったん海に潜ると、宙に飛び上がって“白衣の天使”をくぐり着た。
 ぼわん。

「どんなビョーキも、とたんに治せちゃうンだわね〜♪」
 立ち上った白い煙から、看護婦姿の小さな女の子が現れた。
 年の頃はスフィアよりも幼いくらいである。
 ハンス(仮名)は女の子を指さし、目をパチクリ。
「……だれ?」
 看護婦姿の女の子は、ハンス(仮名)のスネを思いっきり蹴りあげた。
「イタッ!」
 スネを抱えるハンス(仮名)の横で、ニーヤが溜め息をつく。
「瑠歌よ」
「瑠歌?!」
「そうよ、瑠歌ちゃん。
 忘れちゃったのん〜?」
 イルカから人になった瑠歌は、ニヒヒっと意地の悪い微笑を浮かべた。


■人魚姫は“封印の眠り”に入っていた。

 二人と一匹は、人魚姫の玉室へ来ていた。
 ハンス(仮名)のビョーキを治す前に、瑠歌が人魚姫に会いたがったのである。
「ちょっと、席をはずしてくれるん」
 瑠歌がそういうと、飛び猫はピクンと両耳を立てた。
「にゃあん〜っ」
「あ、ちょっと、待ってよっ!
 飛び猫ったらぁ〜!」
 走り去る飛び猫を追い、ハンス(仮名)は慌てて玉室から出ていった。
 これで玉室にいるのは、人魚姫と瑠歌のふたりっきりである。
「さて」
 玉室を見回してから、瑠歌は口を開いた。
「姫さま、聞いてるんでしょん?
 今の状態なら、ちょっとだけでも“封印”を解けるはずよん〜」
 人魚姫の眉がピクリと動いた。
 そして、ゆっくりと瞼を開き、宝石のような瞳を見せる。
「あん! 姫さまん〜♪ 会いたかったわん〜♪」
 喜々とした瑠歌が、親しげに人魚姫に抱きつく。
 しかし人魚姫は、その抱擁に応えようともしなかった。
「なにをしに来たのですか、瑠歌?」
「あんもう、冷たいんだからン〜。
 決まってるじゃないん」
 瑠歌はニッコリすると、人魚姫に唇を近づける。
「……!」
 人魚姫はギュッと目を瞑り、顔を背けた。
「くふふ〜。あいかわらずウブねん〜。
 好きなの? あの、ぼうやのこと」
「……」
 ふいの問いに、人魚姫の頬がさくら色に染まる。
「そうなんだ、やっぱり…」
「…ち、違います……」
 瑠歌はニヒヒっと、底意地の悪い微笑を浮かべた。
「自力で“封印”を解けるようになるんだもん。
 よっぽどなのねん。
 どこがいいのん? あんな莫迦ッ!」
「……あなたには、わからないことです。
 だから300才となっても、そのような姿を好んでいるのでしょう?」
 瑠歌はあからさまにムッとなった。
「そうよ。わかりたくもないね。
 欲望のために、アタシたちを狩る男たちなんて!!」
「世の殿方は、そのような下賤ばかりではありません」
「アイツがそうだっていうの?
 300人も子供がいる、アイツが?
 あははッ! おっかしい〜〜〜っ!」
 ケラケラと莫迦笑いをひとしきり。
「アイツこそ、欲望の塊じゃないのかい?」
 人魚姫は溜め息をついた。
「……有名なのですね…」
 200人の妻と100人の妾、300人からの子供を持つ男。
 その放蕩のせいで、国の財政を破綻させ、一国を売り飛ばした男。
 それは否定しようのない事実。
 そして人魚姫自身が持つ、ハンス(仮名)への不審の壁である。
 しかし反面、知れば知るほど、ハンス(仮名)は世間がいうほどの女ったらしとも、極悪人とも思えなかった。
 あけすけで愚直な極楽とんぼ。しかし何にも前向きで素直な明るい少年。
 ハンス(仮名)を庇えない自分が、人魚姫はとても歯がゆかった…。
「フン!
 アイツはあのまま狂い死にしたほうが、世のため、アタシたち人魚のためだと、思わないかい?」
 ハッと顔をあげ、人魚姫は瑠歌を見つめた。
「約束を破る気ですか?」
「姫さまの返答次第」
 ニヒヒっと瑠歌は笑みを浮かべた。
「だ・か・ら。
 アタシの、可愛いお人形さんになってぇん〜♪」
「それはお断りしたはずです。
 忘れたのですか?」
 人魚姫は、グッと瑠歌を睨みつけた。
「わたくしにした“封印”のことも」
「だってぇん〜。
 汚らわしい男どもに取られるの、イヤだったんだもん〜」
「そのことは、……少しは感謝しています。
 正銘を知られることもなく、無事でいられるのですから…」
 怪我の功名というべきか。
 “封印の眠り”の貢献は、否定できないことである。
「いやん、感謝なんてん〜。
 姫さまがソノ気なら、今すぐ“封印”を解いてもいいのよん〜?」
「ハンス(仮名)の命を救って下さい」
「……」
 人魚姫と瑠歌の視線がぶつかる。
 言葉もない静寂が続き、やがてひとつの声がそれをやぶった。
「あんな、莫迦でマヌケな女ったらしでも、死んだら泣く人はいるのよ。
 あのウスラぼけの、300人の子供たちがそうかもしれないし――」
 いつのまにやら、飛び猫が後ろに立っていた。
「あたしも、その一人よ」
 飛び猫を睨む瑠歌は、突然、ハッとその眉をあげた。
「思い出した。
 おまえ、あのときにいた…」
 瑠歌が呟くと同時に、息を切らせたハンス(仮名)が玉室へ入ってきた。
「まってよ、飛び猫……。
 …もう、……走れないよ……」
 ゼイゼイ、ヘトヘトのハンス(仮名)を見て、人魚姫はなにごともなかったように笑った。
「うふふ。ずっと、後を追っていたの?
 飛び猫に勝てる人なんていなくてよ、ハンス(仮名)」
「にゃあ」
 表彰台に飛びのるように、飛び猫は人魚姫の膝へ上がった。
 人魚姫がその頭を撫でると、飛び猫はゴロゴロと喉を鳴らした。
「もう、話しは終わったの?」
 一息ついたハンス(仮名)に、人魚姫がニコリと微笑む。
「はい。
 ハンス(仮名)のお陰で、久しぶりに楽しいひとときを過ごせましたわ」
「いやぁ、ボクのお陰なんて…そんなぁ……」
 ぐねぐね、ダラしなく、ハンス(仮名)が照れる。
 人魚姫はハンス(仮名)への微笑を、瑠歌へ向けた。
「瑠歌。約束を、はたしてくださいますね?」
 瑠歌がブスッと、口を尖らせる。
「ぶぅ……わかってるわよん。
 行くわよん、ハンス(仮名)」
「う、うん」
 踵を返す瑠歌に、人魚姫が再び声をかける。
「瑠歌、信じてますよ」
「……コイツとは関係なしに、解いてやってもいいのよん?」
「ありがとう、瑠歌。でも……。
 わたくしはしばらく、このままがいいのです」
 人魚姫の微笑は、どことなく幸せそうであった。



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