「お父さ〜ん」
時はふたたび遡る…
ハンス(仮名)たちはバカンスよろしく、浜辺へと来ていた。
「ハンス(仮名)〜!」
引き潮で頭を出した岩の上で、スフィアが元気に手を振る。
同じ山国育ちなのに、スフィアは泳ぎがとてもうまい。
海に入れば波に飲まれてしまう、父のハンス(仮名)とはエライちがいである。
「あんまり遠くに行くと、危ないよぉ〜」
ハンス(仮名)は口に手をあて、浜辺からスフィアに声を返した。
「わかってるぅ〜。
心配性だね〜、お父さ〜ん」
普段は呼ばない呼び名で、スフィアが応える。
初めての海水浴で、かなりはしゃいでいるらしい。
「連れてきてよかったなぁ〜」
波にはしゃぐスフィアとアクア。
ふたりの笑い声を聞いていると、心の底からそう思えるのである。
「いつまでも子供だと思っていたら…。
女の子の成長って、早いモンなんだねぇ…」
父親の目でハンス(仮名)の眉尻が下がる。
いつのまにやらスフィアの背は延びて、体の線はほんのり女性らしさを香らせていた。
買ってあげた水着もよく似合う。
スフィアはもっと布地の少ないものをねだったが…。
あいにくそちらは、まだまだ早すぎるように思われた。
それに布地面積と値段が反比例するのは、なんとも納得がゆかなかったのである。
「なぁに〜? そのイヤラシイ目っ!」
隣で横たわる飛び猫・ニーヤは、サングラスをかけていた。
その腹には、三つの乳バンド…。
布地が少なければイイ、そういうものではないのである。
「なによ。イヤラシイ目で見ないでっ!」
反論したいのはヤマヤマなれど。
海水パンツ一丁の身では、鋭い牙と爪がコワくて、いいたくてもいえないのである。
「見るワケないじゃない!
乳首オバケのおっぱいなんて!!」
浜辺を教えてくれたピアスが、着替え終わって現れた。
相変わらずの豊満すぎる胸が、たゆんと自慢げに揺れる。
ニーヤはフンッと鼻を鳴らした。
「出たな、怪奇・牛女!」
「誰が牛女だって?」
「誰が乳首オバケよ?」
水と油、猿と犬、いやさ、猛虎と暴龍の口ゲンカで、のんびりバカンスはすっかり台無し…。
「スフィア〜、いっしょに浜辺で遊ぼう〜」
風雲急の現実に耳を塞ぎ、ハンス(仮名)はかわいい愛娘に逃げ込むのであった。
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