“うつぼ=かずら”
■アジトへ行くと、エプロン姿のピアスが床に倒れていた。
「ピアス! どうしたの!!」
「し、痺れて……動けない…」
助け起こすハンス(仮名)に、ピアスが弱々しくいい、飛び猫・ニーヤはまな板を見ていた。
「毒ね。“うつぼ=かずら”の突起には毒があるから」
まな板の上には、満腹のヘビみたいな魚“うつぼ=かずら”があった。
まだ捌き始めたところだったのだろう。
真っ先に落とすべき突起が、まだたくさん生えたままであった。
「ドジッたわ…うっかり背びれに触っちゃって…。
何度も料理したことあるのに…」
「“うつぼ=かずら”は、精力増強に効くんだよね」
「……おいしいからよ」
「薬は? どこかにあるんでしょ?」
ニーヤが聞くと、ピアスは棚のひとつに目を向けた。
「そこの戸棚にあるわ。
ハンス(仮名)、取ってくれない?」
「うん」
観音開きの片方を開けると、その隅に薬らしき小瓶がひとつあった。
ラベルにも「毒消し」と書いてある。
(あれ?)
ハンス(仮名)は小瓶をとると、後ろに隠されていた鍵を見つけた。
見覚えあるその形状は、貞操帯の鍵と同じである。
(なんでこんなトコに…?)
不思議に思ってニーヤに目を向ける。
しかし取り上げられた合い鍵は、ニーヤの首輪にぶら下がったまま…。
ということは、りりんの鍵か別の合い鍵か…。
「ハンス(仮名)? なにしてるの?」
ニーヤにいわれ、ハンス(仮名)は戸棚を閉めた。
鍵のことは後回し。いまはそれどころではない。
小瓶の蓋をヒネるハンス(仮名)に、ピアスがいう。
「ねぇ、…塗ってくれない?」
いつになく、しおらしい。
「毒が回ってるから、全身に塗らないと…。
この体じゃ、うまく塗れないわ……」
ハンス(仮名)はニーヤを見た。
「まあ、しょうがないわね……」
ニーヤがしぶしぶ許可すると、ハンス(仮名)はピアスを手伝い、上半身の着衣を脱がせた。
痺れ毒のせいか、ピアスの頬はほんのりと赤らみ、瞳も少し潤んでいた。
肌は汗でしっとり、奔放すぎる乳房は、仰向けの胸からこぼれ落ちそうである。
弱っているからこその色気といおうか。
くんにゃり、力の抜けた彼女の身体には、なんともいえぬ色香が漂っている…。
「ハンス(仮名)……」
ニーヤの声にハッとして、ハンス(仮名)は瓶に指をいれた。
ゼリー状の軟膏は、ひんやりして冷たい…。
それをピアスの腹につけると、彼女の身体がびくっと動いた。
「ごめん、冷たかった?」
「うん。ちょっとだけ…。
うふふ…ヘンなトコから塗るのね…」
「そ、そうかな…?」
ニーヤが見ている手前、乳房には手をつけづらい。
それに魅惑的な乳房に触れたら、そのまま離れなくなるような気もしたのだ。
「…もうすこし、強く擦りこんで…ん…気持ちいい…」
腹にも性感帯はあるのだろうか…?
いやいや、単なるマッサージに対していった言葉だろう。
そう思っても、なだらかな下腹部に沿って手の平を滑らせていると、自然と股間が膨らみ、貞操帯がキツくなる。
「…ぅん……ハァ……」
ピアスのなにげない吐息さえ、愛撫されて感じる女の喘ぎに聞こえてしまう…。
相手は病人のようなもの。
しているのは、単なる治療。
いかがわしい気持ちなど、これっぽちも……いや、これっぽちの理性が消えてしまいそうである。
「おっぱいも、塗ってね…?」
ニーヤの視線が少しイタイが、病人に頼まれた治療である。
「う、うん…」
ハンス(仮名)は逸る気持ちを呑み込み、小瓶から新しい軟膏を取り出した。
そして白い胸元に触れると、手の平で軟膏を塗り延ばし、すぐに柔らかい峰へ辿り着く。
そのまま乳房の頂きへは登頂せず、奔放すぎる稜線に沿わせ、手の平をゆっくり巡らす。
たゆんと、こぼれそうな乳房が揺れると、ハンス(仮名)は思わず息をのんだ。
(わかってたけど、…ピアスのおっぱい、りりんよりずっと大っきい…。
乳輪も、おっぱいの大きさを誇示してるみたい…。
姉妹なのに、こんなにちがうモンなんだな…)
いつのまにか擦り込む手は、乳房の大きさと柔らかさを調べるようにさりげなく揉んでいた。
これは治療、かるく触れるだけ…そう意識していても、ピアスの乳房は大きすぎる。
擦り込む動作は、自然と乳房を揉む愛撫となってしまうのである…。
ほどなく軟膏のてかてかとした光りが、大きすぎる乳房の丸みを妖しく際だたせた。
ごくん、ごくん、と生唾を呑み込み、鼻息ばかりを漏らして乳房を揉み摩る。
手の平にピアスのぬくもりが伝わり、人肌の心地よさがさらにハンス(仮名)を誘惑する…。
(もっとよく揉みしだいて、シコッた乳首をチューチュー吸ってみたいな…)
戸棚に貞操帯の合い鍵もある。
お目付役のニーヤをなんとかすれば、そのまま、ピアスとえっちしてみたい…。
そう強い欲求があるものの、ソレはそれ。
紋章がかかっていることもあるのだ。
弱っているピアスとえっちなど、フェアではない。
「どうしたの、ハンス(仮名)?
耳が真っ赤よ」
意地悪くピアスがからかった。
「も、もう…ピアスからかわないでよ…」
気まずく赤くなりながら、やっぱり姉妹だなぁ、などとハンス(仮名)は思った。
「今日の勝負は、おあづけだね」
ハンス(仮名)がそういうと、ピアスは半身を飛び起きさせた。
「なんで?!
あたしなら大丈夫よ!」
「無理しちゃダメよ。
痺れるだけとはいっても、“うつぼ=かずら”の毒は莫迦にできないんだから」
ニーヤがいたわるようにいった。
いつもの喧嘩相手とはいえ、こんな時には心配になるらしい。
「ニーヤのいうとおりだよ。
今日はやめよう?」
「大丈夫だって、いってるじゃないッ!」
突然の癇癪に、ハンス(仮名)もニーヤもびっくりしてしまった。
「あ、わかった。
あたしに勝つ自信がないのね?
そうなんでしょ?!」
「勝つとか、勝たないとか、そういう問題じゃないでしょ?」
憤慨した飛び猫がたしなめた。
「別に今日じゃなくてもいいじゃない。ね?」
ハンス(仮名)がいうと、ピアスは不満げな顔を向けた。
「じゃ、いつならいいの?」
ニーヤが首を横に振る。
「とにかく、今日はダメだよ。
今日は、解毒に専念しよう?
ボクとニーヤで看病してあげるからさ」
ピアスは、ぶすッと口を尖らせた。
「わかったわよ。
それじゃ……ハぅッ!」
ピアスは急に、苦しげに胸を抑えた。
「ど、どうしたの?」
「な、なんか、急に……熱く…ぅっ…!
ハンス(仮名)…、あんた、ナニ塗ったの…?」
「な、なにって、ボクはピアスのいうとおり……」
薬瓶を見て、ハンス(仮名)は息をのんだ。
「催淫剤ッ?!」
ラベルを見た飛び猫が、驚きの声をあげた。
「ハンス(仮名)!
アンタ、なんてもん、塗ってんのよッ!!」
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