りりんと妹
■再びハンス(仮名)は、娼館に忍び込んでいた。
今度こそ、貞操帯の合い鍵を作ろうというのである。
「くふふっ! しめしめ…」
首尾よく鍵を見つけると、ハンス(仮名)はほくそ笑まずにはいられなかった。
そして粘土で型を取ると、鍵を元の位置に戻し、あとは娼館から抜け出すだけ。
「抜き足…差し足…」
壁に身をくっつけ、注意深く廊下を進むと、なにやらりりんの話し声が聞こえてきた。
ちょうど差しかかった部屋の中にいるらしい…。
そうなると、盗み聞きしたくなるのが人情である。
ハンス(仮名)はカップを取り出すと、それをドアにつけて聞き耳を立てた…。
「まだそんなこといってるの?」
「当たり前じゃない。
あたしの夢は、母さまの夢だもの」
言い争っている、二人の雰囲気…。
りりんの相手の声は、どこかで聞いたような……。
「母さまのことはもう忘れなさい、紅玉ッ!」
「その名前で呼ばないでッ!
誰かに聞かれでもしたら、どうするつもり?」
ひそめた声でたしなめられると、りりんは尾が垂れた犬のように声を落とした。
「……ごめんなさい」
そして、しばしの沈黙…。
「聞きたいことは聞いたから。
今日はこれで帰るわ、姉さん…」
(姉さん…?!)
そうすると中にいるのは、りりんの妹なのだろうか…?
と、逃げる間もなく、勢い良くドアが開いた。
「イッ!」
ハンス(仮名)はドアと壁に挟まれ、堪らず漏れ出る痛みを必死で堪える。
ドアを挟んで足音が聞こえ、ついで早足の後ろ姿が見えた。
その髪色と背格好は、ピアスのもの…。
(それじゃ、ピアスとりりんは姉妹…?)
挟まれた痛みが引いてゆく…。
「……ハンス(仮名)」
挟んでいたドアはなく、りりんが問いたげな目を向けていた…。
「ね、ねぇっ! お風呂っ!
お風呂、まだ大丈夫だよね?
なんか、急に洗ってもらいたくなっちゃってさっ!!
もうかゆくて死にそうなんだ〜」
先手を打ったつもりだが、それでゴマかせたとは思えない…。
■りりんは無言のまま、ハンス(仮名)の体を洗っていた。
「……」
げに恐ろしきはりりんの沈黙…。
黙ったままおちんぽを摩られるのが、こんなにも恐ろしいこととは、思ってもみなかったのである。
ハンス(仮名)は戦々恐々。妙な汗ばかりが浮かんでくる。
「ね、ねぇ、りりん?
互いに紋章を持ってて、しかも正銘を知ってる同士がえっちすると、紋章はどっちに移るのかな?」
「さぁ…さきにイッた方じゃない?
わたしには経験がないから、わからないわ」
「ふ〜ん。
りりんにも、経験がないことがあるんだね〜」
「……ピアスと同じことを聞くのね」
「え? そ、そうなの?」
「わたしたちの話し、聞いてたんでしょ?」
「き、聞いてない、聞いてない」
「そう。ならいいけど……」
りりんはそういうと、胸の谷間のおちんぽを見て、吐息をひとつついた。
[協力]ぎゅっと!(みるくぱい)
「ハンス(仮名)のコレ、今日は一段と逞しいのね…」
「そ、そう?
きっとりりんのおっぱいが、気持ちいいからだよ」
「うふふ。ありがと」
いつもの微笑をりりんが浮かべると、ハンス(仮名)は心の中でホッと一息ついた。
「ねぇ、……舐めて、いい?」
ルージュを引いた艶やかな唇を、桃色の舌先が舌なめずり…。
「う、うん」
「舐めるわね…」
「うん…」
「聞いちゃった…?」
「うん……。
――て、ズルイよぉ、りりんッ!」
「ふふッ。ごめんなさい。
後でゆっくり、埋め合わせしてあげるから。
許して。ネ?」
「もう…」
やはり、りりんは一枚上手である。
「聞かれたなら仕方がないわ」
りりんは小さく肩をすくめた。
「あなたが聞いたとおり、ピアスはわたしの妹。
れっきとした人魚よ。
月光石のイヤリングで、人の姿を保っているけどね…」
そういうとりりんは、しばしの沈黙。
そして躊躇いがちに呟いた。
「できればあの子の紋章は、……そっとしておいて欲しい…」
「なんで?」
「母さまの形見だから…」
りりんの言葉が消え入ると、それ以上のことは聞きづらく思えた。
(いつか、りりんから話してくれるかな…?)
そこまでの関係でないことが、ハンス(仮名)には少しだけ切なかった。
「……ごめんよ、りりん。
別に盗み聞きしようとしてたわけじゃないんだ。
たまたま通りがかって、その……怒ってる?」
「ううん。聞かれるような処で話してたのがわるいんだもの。
ただね…」
ニッコリとした微笑を、ハンス(仮名)に向ける。
「ウソをつかれるのは、キライなの」
そういうとりりんは、ギュッと握った。
「ぎぃああああぁぁぁぁぁッ!
痛きもちいいいぃぃぃぃぃぃッ!」
はたして、りりんが握ったものはなんであったのか…?
それは諸兄のご想像にお任せするのである。
さて。
もうひとつの気になるモノ。
貞操帯の合い鍵であるが…。
こちらは飛び猫・ニーヤに勘づかれ、試す間もなく、アッサリ取り上げられてしまったのである。
もちろん、爪と牙の、いた〜い報酬があったのは、いうまでもない。
[ Prev: ピアスの挑戦状 ] - [ FrontPage ] - [ Next: 今日こそ勝負ッ! ]