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マーメイド05-4




【@右巻きソフトウエア】 「初・体験教室」 「初・体験倶楽部」 「怖くない怪談」 「ないしょのえろカタログ」

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ガンス嫌い


■人魚姫とガンスは、館の庭園にいた。

 まるで恋人同士のように、仲睦まじく談笑する、人魚姫とガンス。
 ハンス(仮名)はソレを、遠い柱の陰から、シャツの裾を噛みしめ、うらめしそうに見ていた。
 女の子ならイジらしい姿であろうが、男であれば情けなくもみっともない姿…。
 まったく。少しは主人公の自覚をもって欲しいものである。
「…ハンス(仮名)……ハンス(仮名)……」
 柱の陰から顔を覗かせ、爺さんがちょいちょいと呼び寄せる。
 まるで家から叩き出されたダメ亭主が、妻の怒り具合を探りにきたようである。
 こちらも少しは、ギルドの長という自覚をもって欲しいものである。

「なあに、 爺ちゃん?
 コソコソとなんで隠れてるの?」
「ワシがここに居ること、アヤツにはいっておらんじゃろうな?」
 爺さんは親指をガンスに向けた。
「うん。
 ガンスは爺ちゃんがここにいること、知らないの?」
「アヤツと顔を会わせたくないんじゃ」
「ははぁ〜ん。
 さては爺ちゃんも、ガンスが苦手なんだね〜」
 祖父の弱味を知って、いじわるな眼差し。
 なにをネダろうかと、頭の中で候補がぐるぐる回る。
「“も”ということは、おまえ“も”か、ハンス(仮名)」
 う、と言葉に詰まるハンス(仮名)。
 ぐるぐる回っていた“おねだりたち”が、失速して墜ちた。
「アヤツの爺には、何度も煮え湯を飲まされたんじゃ。
 いつも影でコソコソやりおって…。
 一族揃って、陰険の血が流れておるんじゃ!!」
 どうやら、ハンス(仮名)と似たような過去を持つようである。
「ここしばらく顔出さんかったから、安心しておったんじゃが…」
「どうにかしてよ、爺ちゃん。
 ガンスのヤツ、姫さまが気に入ったらしいんだよ」
「姫さんも、まんざらでもないようだの」
 まるで人事。
 いや、人魚姫がいくらで売れるか、そろばんを弾いているようにも見える。
「じいちゃ〜ん〜」
 すがりついて泣く肩を、祖父はガシッと掴む。
「ハンス(仮名)、あとは任せた! 応援しとるぞ!
 わしゃ、アヤツは苦手じゃ」
「じいちゃ〜ん……」
「泣くな。気色悪い。
 男なら、自分でなんとかせいッ!!」
「なんとかできるなら、やってるよ〜!
 ボクに勝ち目があると思う……?」
「ない」
 大声を上げて泣く、ハンス(仮名)。
 ガンスの目を気にして爺さんは狼狽えると、ハンス(仮名)の口を塞いで囁く。
「知っとるか?
 アヤツ、ヨットでデートをしゃれこんで、相手に突き落とされたんじゃと。
 くっ、くっ、くっ!
 そのまま浮かんでこなければ、おもしろかったんじゃがの」
「そのジョーク、つまんない…」
「ジョークであるものか。事実じゃよ。
 小さい頃に、いやというほど教えたじゃろ」
 どの教えであろうか…?
 判然としないハンス(仮名)に、祖父は言葉を続けた。
「勝ち負けは情報がモノを言う。
 どう使うかは、おまえ次第じゃ」


■「……」

 そ〜と。用心するように、スフィアが玉室をのぞき込む。
「? どうしたの、スフィア?」
 “封印の眠り”に入った人魚姫。そしてハンス(仮名)。
 飛び猫はガンスを送りにいって、まだ戻らない。
 玉室にいるのが二人だけであることを確認すると、スフィアはほっと安堵をついた。

「やっと帰ったんだね」
 スアィアは、ほっかむりした逆さ箒を持っていた。
「ガンスのこと?」
「スフィア、あのひと、きら〜いッ!
 イヤだっていうのに、変なことばっかりするんだもん!!」
「変なこと? スフィアに?」
「うん。エッチなこといわせようとしたり……。
 さっきだってスフィアの手、ギュッと握って、離してくれなかったんだよ?
 ホラ、見てよ、ハンス(仮名)」
 スフィアが小さな手を差し出して見せる。
 白い肌に、痛々しい真っ赤な跡がついていた。
「大丈夫? 痛くなかった?」
 ハンス(仮名)はかわいそうな手を、やさしく撫でさすってあげる。
「痛かったよ、とっても。
 スフィア、涙が出そうになっちゃった。
 でも、姫さまの大事なお客さまだから、必死になって堪えたんだよ。
 スフィア、エライでしょ?」
「こんなになるまで、我慢しなくてもいいのに…」
 スフィアの前髪を、そっと撫でる。
「うん。ハンス(仮名)がやさしくしてくれたからいいの!
 スフィアの心配してくれるの、ハンス(仮名)だけだね!!」
 スフィアがハンス(仮名)に、すりすりと抱きつく。
「あははは…」
 苦笑いしながら、ハンス(仮名)は人魚姫の眠りを、横目で確認した。
「ひどいんだよ? 姫さまも飛び猫も。
 スフィアのいうこと、ぜんぜん信じてくれないんだもん!」
 同病、相哀れむ。
 ふたりは肩を落として、ひとつの溜め息をついた。
故国(くに)にいたときも、女の子によくケガさせてたんだよ、あのひと」
「ガンスが来てたの?!
 その話し、初めて聞いた」
「ルビーのこと、覚えてるでしょ?」
「赤毛で髪の長い、三つ編みがよく似合う子だよね。
 笑うとえくぼがかわいくて、クロワッサンを作るのが得意だったっけ」
「うん。ハンス(仮名)の105番目の奥さん。
 背中に古傷があったでしょ?」
「そ、そうだったっけ」
「アレ、……ガンスにヤラれたんだよ」


■りりんに体を洗われ、ハンス(仮名)は泡だらけとなっていた。

「ガンス?
 知ってるわよ。ここにもよく来るし」
 そういってりりんは、泡だらけの胸で、ハンス(仮名)の腕を洗い出した。
「わたしは一度も相手をしたことはないけど。
 …痛いのはゴメンだもの」
「痛いって?」
「そういうシュミなのっ!
 なんか、前にもこんな台詞いったわね……あっ!」
「どうしたの?」
「思い出したの。
 アクアを捨てたの、ガンスよ」
「それ、間違いない?」
「もちろん。
 えらく長い名前だったもの。
 …ガンス……ハンス(仮名)……。
 なんだか似た名前ね。名字も…後半が似てるし……」
「あっ!」
「どうしたの、ハンス(仮名)?」
「いまの、すっごく、気持ちよかった!!」
「そう? 変な処がイイのね……」
「うん。たまにヤッて」


■ピアスは怒ったように、フラインパンをジュージューいわした。

「知らないわよ、ガンスなんて。
 知りたくもないッ!」
「ということは、知ってるんだ。ガンスのこと」
「だからいってるでしょ?
“知りたくもない”って!
 女ったらしの従兄弟がサドだったなんて、知りたくもなかったわよ!」
「あ、サイですか…そこまでお知りですか……」
「それよりハンス(仮名)」
 ピアスはフライパンから皿に盛りつけ、おいしそうな料理を出した。
「今日は小うるさい小姑、どうしたのよ」
「湯気を立ててるスパゲッティは、とってもおいしそうだよね〜♪」
「姫さまともども、サド王子と晩餐か…」
「お、おいしいね、ピアスの作った料理は!」
「泣かないでよ、莫迦。
 くやしいなら、くやしいって、男らしく叫びなさいよッ!」
 煮え切らないハンス(仮名)に怒ると、ピアスはハンス(仮名)からスバゲッティを取り上げた。
「だってぇ……」
 ハンス(仮名)はフォークをくわえて、今にも泣きだしそうな顔である。
「あ〜! もう、うっとおしいッ!!
 どっちが哀しいのよ?!
 姫さま? それともスパゲッティ?!」
「……両方」
「莫迦ッ!! もう知らないッ!!」
 プンッとピアスはそっぽを向き、ハンス(仮名)はフォークをくわえたまま、ぐじぐじ…。
 沈黙の小屋の外で、ふくろうだけが流れる時を数える。
「アクアのことだけどね…」
 ピアスはポツリと口を開いた。
「なんとかなるかもよ。
 “鋼鉄の処女”は一種の封印だから、封印を解けばいいのよ」
「……封印を、解く…?」
「心からあんたを“欲しい”、と思わせるのがてっとり早い方法ね。
 そうすれば内なる魂の力で、封印が解かれるわ」
「それって、えっちしたくさせろってことだよね?
 強力な催淫剤でも使うの?」
 ピアスは、けらけらと笑った。
「莫迦。“心から”っていったでしょ?
 あんたにホレなきゃ、なにやってもダメよ!」
「ホレさせるねぇ…」
 アクアとはわるい関係ではないが、そんな関係になるかは怪しいものである。
 それに、姫さまやニーヤはなんというだろう…?
 本格的に捨てられ、ガンスの元へ走ってしまうのではなかろうか…。
「まあ、つまるところ、あんたの努力次第ってワケよ。
 がんばってね」
 ハンス(仮名)の不安などは知らず、ピアスは勇気づけるように微笑んだ。
「でもさ、ピアス?
 アクアはガンスのことが好きだったんでしょ?
 じゃ、ガンスはなんでダメだったんだろ…?」
「アイツのは痛めつけるだけでしょ?
 SMってのはね、そんなもんじゃないのよ。
 アクアはどっかで、受け入れたくなかったてことね」
 ピアスは小莫迦にしたように肩をすくめた。
「ふ〜ん。くわしいんだね」
 ピアスはポッと頬を赤らめた。
「ほ、本で読んだだけよ…。
 よ、読みたかったら、貸すわよ?」
「ふーん…。それって、えっちな小説ぅ〜?」
「莫迦っ!」
 ピアスはエプロンをハンス(仮名)に投げつけた。
「でもピアス?
 なんでボクに、解除の方法を教えてくれるの?」
 ピアスも紋章を集めているのは知っている。
 解除法を教えるなど、敵に塩を贈るようなものである。
「あたしがアクアの紋章を取ることはできないけど、あんたならなんとかできるでしょ?
 そしたら、あんたから紋章を取り返すの。
 あたしのと姉さんのと、アクアの紋章。
 三倍付けでドンっ! ね」
 ピアスはニコニコ、とてもごきげんである。
「まだ諦めてないんだ……」
「莫迦ねぇ! 当たり前でしょ?」


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