ピアスの告白
■ハンス(仮名)は繋がりを解くと、驚きにみまわれた。
ピアスの太股へこぼれ出た白濁に、ピンク色のものが混じっていたからである。
激しくしすぎて、膣壁を傷つけてしまったのだろうか…。
もうひとつの可能性もあるが…いや、まさか…ピアスがそんな……。
問いかけの目を向けると、ピアスは顔を背けたまま答えた。
「初めてよ、もちろん。
いけない?」
やはり、破瓜の血であったか…。
そうと知っていれば、あんなに乱暴にはシなかったろうに…。
ハンス(仮名)は少しばかり、申し訳なく思った。
「いけなくは、ないけど……。
ボクから紋章を取ろうなんて、よく思ったね」
ピアスは半身を起こすと、膝を崩したままで、ハンス(仮名)に向かい合った。
「取れるなんて、思ってないわよ、もちろん。
だって、名前覚えたなんて、ウソだもの」
シレッというピアスに、ハンス(仮名)は目が眩んだように思えた。
「え? 今、なんていったの?」
「ウソだっていったの!
あんな長ったらしい名前、あたしが覚えられるわけないじゃない」
「じゃ、なんで…」
「そうでもいわなきゃ、あんた、こんなことシてくれないでしょ?
ていうか、それでもシてくれる気、なかったでしょ?」
「うん…まぁ……」
「だから、“うつぼ=かずら”のお芝居までしたのよ」
「へ? え? お芝居?!」
「そ。痺れ毒なんて大ウソ!
あんたはマンマとダマされたのっ!」
ポカンと口を開けるしかない。
「うふふ〜。迫真の演技だったでしょ〜?
でも、催淫剤だけはホント。
じゃなきゃ恥ずかしくて、人前でオナニーなんてできないわ」
ピアスはニコニコしながら、ハンス(仮名)のほっぺたをチョンっとつっついた。
「じゃ、じゃ、あの小瓶は?
このラベルは?」
例の小瓶を手にして見ると、ラベルは「毒消し」となっていた。
そう。戸棚から取り出した時と同じである。
ピアスはキツネにツマまれたようなハンス(仮名)から、小瓶を摘まみ取った。
そしてイタズラっぽい目で、両の手の平に包んでから、小瓶のラベルをハンス(仮名)に見せた。
それは再び、「催淫剤」に変わっていた。
「うふふ! おもしろいでしょ?
手で温めると「催淫剤」にラベルが変わるの。
戸棚にあったのは、どっちも催淫剤ってワケ」
“してやったり”と微笑む彼女に、ハンス(仮名)はクラクラした。
かわいらしい女狐に、怒る気さえしない。
「でも、あんなに苦しいとは、さすがに計算外だったわ。
あんたってば、なかなかシてくれないんだもの。
用意した合い鍵も使わないし……。
こ〜んな美女が、恥ずかしいコトして見せて、必死に誘ってるのにサ。
もーほー趣味か、インポなのか…ホンキで心配しちゃったわよ?」
「それと、悶え死ぬんじゃないかって?」
「ま〜ね〜」
ピアスは溜め息をひとつついた。
「あたしより、あの猫の方が魅力ある?
やっぱり、姫さまの方がいいの?」
ハンス(仮名)はなんとも返事に詰まった。
ニーヤのことを笑っていいものか、正直に胸の内を明かしたものか…。
そんな正直なハンス(仮名)を見て、ピアスはクスリとした。
「ウソつき呼ばわりしたのは謝るわ。ゴメン。
でも、“抱いて”なんてかわいらしい台詞、あたしに似合うと思う?」
「“ちんぽ勃てろ”って、のしかかる方が似合ってるね」
ピアスのそういう場面を想像して、ハンス(仮名)はクスリとした。
「論外。
それじゃ、男どもがやってることと、変わんないじゃない」
ツンと、ピアスはハンス(仮名)の胸に指を立てた。
そこには、委譲されたばかりの紋章があった。
「最初はホントに、奪い取るつもりだったのよ。
でも……、なんか、そんなのどうでもよくなっちゃったわ。
なんでだろ…」
紋章の下の乳首を、ほっそりした指先が撫で転がす。
いじらしく、切なげな愛撫。
ハンス(仮名)は吐息とも溜め息ともつかないものを漏らした。
ピアスが少女のように口を尖らす。
「たまにはご飯、食べにきてよね…」
ハンス(仮名)は自然と頷いていた。
「うん。
だけど、……今度は毒ヌキだよ?」
「大丈夫。
シたくなったら、あんたの料理に混ぜるから」
■外へ出ると、憮然とした飛び猫が待っていた。
「鍵、返すよ。……ごめん」
ハンス(仮名)が合い鍵を出しても、飛び猫・ニーヤはそれを受け取らなかった。
「でもわかってよ。
これは、ボクのプライドがかかってたんだ」
「そんなの、どうだっていいじゃないの!!」
小さな体いっぱいに張り上げた声。
ニーヤの怒りはわからないでもない。
「ボクは、“姫さまの好きな人はウソつきだ”なんて人にいわれたくないんだ」
「姫さまはアンタのことなんか、なんとも思ってないわよ」
「それでもいいよ。
ボクは、好きな人には正直でいたい。
好きな人に、ウソつきだなんていわれたくない。
だから戸棚の合い鍵でなく、ニーヤの鍵が必要だったんだ」
そういわれてニーヤは、少しトーンを下げた。
「いいじゃないのさ。
ウソつきよばわりされたって…。
ひ、姫さまだって、怒んないわよ」
「そんなことしたら、今までのことだって、これからのことだって、みんなウソになっちゃうよ。
それじゃ、信じてくれた人たちがかわいそうだよ」
「……聞いてたわよ。
あの女のウソだったんでしょ?」
バツわるげに、ハンス(仮名)は頬を掻いた。
「ならなんでそういわないの?
あんな淫乱尻軽女、庇うことないじゃない!」
「いいすぎだよ。
ピアス、はじめてだっもの」
これにはニーヤも目を丸くした。
このことは知らなかったらしい。
「それに庇うつもりはないけど、責める気にはなれないよ」
ニーヤは再び、眉を険しくした。
「だから、自分の胸の中にしまっておくの?
そうやって、なんでもかんでもしょいこむつもり?
ゴミ箱みたいに、汚いものでもなんでも飲み込んじゃうつもりなの?」
「ボクは脳天気な極楽トンボだから、なにいわれても気にしないよ」
「またウソつく。
ウソつきって言われると怒るくせに。
あたしはパートナーなのよ?!
グチのひとつぐらい、コボしてくれたって、いいんじゃないの?!」
「……うん。
こんどから、そうする」
「わ、わかればいいのよ、わかれば。
…あたしも、ハンス(仮名)を追いつめるようなこと、いったし……」
ニーヤはニーヤで、後悔をしていたらしい。
きっと尻すぼみの言葉は、ニーヤなりの謝罪なのだろう。
ハンス(仮名)は翼のある猫が、急に愛おしくなり、そっとその小さな頭を撫でた。
「て」
ニーヤは、ポツリとそれだけ。
「テ?」
「手、見せなさいよ。
薬ぐらい、塗ったげるから…」
ニーヤが作った、引っ掻き傷のことをいってるのだろう。
ハンス(仮名)が素直に手を差し出すと、ニーヤは耳を垂れてそこにある傷を舐めた。
瞬間、自分の行為に、ニーヤはハッと赤くなった。
反射的にしろ、相手の傷を舐めるなど、キスにも等しい行為である。
「くふふっ。
催淫剤はやめてよね?」
ニタニタ意地悪く笑うと、その顔に、げしッと飛び猫の蹴りが炸裂した。
「なんでアンタはいつもそうなのヨッ!」
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