はじめての計画・2
好美と良子は手を繋ぎ、ふたりで校舎内を歩いていた。
「どこにいるんだろ…?」
「うん…」
頼りのゆり先生が見つからない…。
当てどもなく捜し歩いていると、ふたりは好美の教室に通りがかった。
廊下の壁一面に貼られた、幾枚もの習字。
それはかすかな空気の流れにも、蔦の葉のようにゆらめいた。
良子はその中の一葉に目を惹かれた。
「あ。これ、こよしちゃんのだね!」
コンクールかなにかで賞をもらったらしい。
金色のシールと、リボンの花がつけられていた。
「字、うまいんだね〜」
好美はおしとやかに微笑んだ。
「習字は、幼稚園の頃からやってるから」
「へ〜」
「お陰で書記にされちゃった」
「あはは! あるよね〜、そういうの〜…」
調子よく相槌を打った良子は、「ん?」と首を捻った。
そしてすぐに、「あっ!」と、声を上げた。
朝礼や学校行事で、好美が生徒会の子たちと並んでいたのを思い出したのだ。
「書記って、"生徒会の"書記?!
やっぱり、頭いいじゃん〜」
「そんなことないよ。
押しつけられてなったみたいものだもん」
初等部の生徒会なんて、所詮、人気投票みたいなものだ。
他に立候補がいなければ、それで簡単に決まってしまう。
謙遜でなく実際そうなのだが、それでも良子は称賛の声をあげてくれた。
「そんなことあるよ〜。
すごいなぁ〜、こよしちゃん〜」
くったくもなく褒められると、好美は誇らしくもあり、気恥ずかしくもあった。
「よ、よしちゃんの教室は隣だよね?」
そういって好美は、良子の教室に足を向けた。
話をそらしたかったのと、良子のことをもっと知りたかったからだ。
無人と思われた教室に入ると、小さな留守居役がかわいい声で挨拶をしてくれた。
「インコ飼ってるんだね」
好美が小走りに鳥籠へ近寄る。
青いセキセインコは首を傾げて、再びかわいい声を聞かせてくれた。
「うん。あたしが世話してるの。
生き物係なんだ」
良子が鳥籠を一緒に覗き込み、そう教えてくれた。
好美は鳥籠の格子に人指し指を入れた。
するとインコは、首を傾げながら近づき、その指先にジャレつきはじめた。
そうされることを、好美は知っていたみたいだ。
「インコ好き?」
「うん。家で文鳥飼ってるの。
桜文鳥。手乗りなのよ」
「へ〜。かわいいね!」
「今度、遊びに来て。手に乗せてあげる」
「ホント?!」
ニッコリ頷き返すと、良子も笑顔を返してくれた。
そしてふたりで鳥籠に目を戻すと、良子が呟いた。
「あ。水がなくなってる…」
水浴びに使ったのだろう。
鉢にもプラスチックの水入れにも、ほとんど水がなくなっていた。
「ちょっと水取りに行っていい?」
「うん。わたしも行く」
ふたりは鉢と水入れを取り出すと、手洗い場へと向かった。
そして手洗い場で文鳥の話しをしながら、鉢と水入れを洗っていると、廊下の向こうから男子たちが近づいてきた。
男子たちは五、六人くらいのグループ。
好美たち同様、体操着のシャツに上履きという出で立ちで、中には全裸の子もいるようだった。
ふたりはすぐに、男子たちの下半身へ目がいった。
しかし残念ながら、おちんぽの大きさはよくわからない。
ふたりは仲良く落胆のため息をこぼした。
男子たちの背丈は、どの子も好美たちの肩ほどもなかった。
どうやら、みんな下級生らしい。
それを思うと、少し珍しい光景ではあった。
なぜなら下級生が、高学年の階まで来ることはまずないからだ。
おそらく探険家気分で、人気のない校舎を歩き回っているのだろう。
普段となにがちがうでもないが、休日の校舎には物珍しい雰囲気があるものだ。
そこらへんの気持ちは、好美にもなんとなくわかる。
聞くともなしに様子を伺っていると、男子グループは歩きながら、なにやら言い争っているようであった。
正確には、軽いじゃれ合いといった感じで、一人の男の子をみんなでからかっていた。
「え〜?!
まだドーテイなのかよ〜?!」
「う、うるさいなぁ…」
「ドーテイってか、ソーローなんだよな?」
「う゛〜…。
モンハンの新しいの、貸さないぞ!!」
男の子はひどく気にしているようで、少し可哀相なくらいだ。
しかし、早漏といえば、早漏なのだろう。
過敏に感じすぎるのだ。
撫でられるだけでイキそうになったり、イッてしまったり…。
我慢して我慢して、いざ挿れようすると、おまんこの口に触れただけでイッてしまう…。
相手の女の子はそれに呆れて、どの子も逃げていってしまう。
お陰で一日たっても、まだ未経験…。
聞こえる話しからすると、そういうことらしい。
「トイレっ!」
男の子はそう怒鳴って、一人、トイレへと駆け込んだ。
好美と良子は水を汲みながら、そんな様子を見るともなし、聞くともなしに、そば耳を立てていた。
「こよしちゃん…」
なにやらピンとひらめき、良子が好美の袖をひっぱった。
そして好美の耳に顔を近づけ囁く。
「あたしに考えがあるんだ」
イキやすいというのは、ある意味、好都合。
挿れるのがコワくなっても、出させてしまえばいい。
それにそんなにイキやすいなら、ムリヤリされてしまうこともないだろう。
第一、相手は背丈も延びていない下級生ひとり。
こちらは女の子なれども、上級生ふたり。簡単に撃退できそうである。
提案を聞くと、好美はメガネの瞳をにっこりと頷いた。
良子はなかなか、いいところに目がつく。頼もしいアイデアマンだ。
ふたりはしばらく、手洗い場で男の子が出てくるのを待った。
他の男子たちは、ちょっと離れたところにかたまっていた。
ときおり好美を見て、ニヤニヤと肘でコヅきあったりしている。
(やだなぁ、もう……)
好美はクラスの男子を思い出し、シャツの裾をひっぱった。
トイレから出てきた男の子に、まず声をかけたのは良子だった。
濡れた手をシャツで拭うその子に、ハンカチを差し出しながら、ニッコリと笑いかけた。
「ねぇ、名前なんていうの?」
男の子は少しびっくりしたようだった。
それでもハンカチを受け取ると、ドモりながら名前を教えてくれた。
「こ、
シャツの胸に、「3−1 越中 章一」とあった。
二年も年下とは、どうりで背が低いわけだ。
それでも学年からすると、背は低い方だろうか…。
髪は短く、男の子らしい髪型。
顔を赤らめてはいたが、気弱なタイプでもなさそうだ。
下半身はシャツの裾で隠れ、足には白い靴下と洗ったばかりの上履き。
好美は章一という男の子を観察しながら、頭の中を言葉遊びでくるくる回転させていた。
越中 章一…。
越中しょういち…。
えっちゅうしょういち…。
えっちゅぅしょう…。
ニッコリと好美は微笑んだ。
「“えっちしよう”…ね!」
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