!!!はじめての鬼ごっこ 5  その日の放課後、ボクはさやちゃんを探してた。  正確には、休み時間も昼休みも、放課後も。  でも教室にも、いつも落ち合う図書室にもいないし、校内を探し回ってもいないんだ。  やっぱり、怒って帰っちゃったのかな…。  うん。そうなんだ。  プールでのコト。きっと怒ってるよね?  だから、謝ろうと思って。  さやちゃんの大好きなポッチーも、ちゃんと用意したんだよ?  これでご機嫌、直してくれるといいんだけど。  じゃないと次のプール授業、フルチンで出席になっちゃう。  うん。海水パンツ、まだ返してもらってないんだ…。 // 下駄箱?  結局、さやちゃんは見つからずじまい。  ボクはため息をついて、オレンジ色に染まった下駄箱で、靴を履き替えてた。  さやちゃんには、後で電話してみよう…。  校庭に出ると、傾いた夕日がとても眩しかった。  ボクは手をかざして日差しを遮ると、不思議なものを見つけたんだ。  プールのフェンスに、人影と海水パンツの影。  ボクは走って校庭を横切り、まっすぐにプールへ向かった。  入り口の柵には鍵がかかってて、そこからは入れなかった。  ボクはランドセルをしょったまま、側の木からフェンスに飛びつき、その高いフェンスをよじ登り、乗り越え、ようやくプールサイドへ飛び下りた。 //プール・サイド {{ref_image BG33b_80.jpg,bgPic}} //--  たぷん、たぷん…。  オレンジ色の水面が、静かに囁く。  さやちゃんはフェンスにへばりつくようにして、校庭を見つめたまま、こっちにオレンジ色の背中を向けてた。  さやちゃん、水着のマンマだった。 「ハジメのこと、待ってたんだからね…」  もしかして、プールの授業から、ずっと…? 「他の子を押し退けて、あたしを捕まえてくれると思ってた…。  誰よりも真っ先に、捕まえてくれると信じてた…」  “待ってた”って、鬼ごっこのことか。  そっか…。さやちゃん、ボクに捕まえて欲しかったんだ…。  お姫様を助け出す王子様。  チビでモヤシのボクには、似合わない役柄だけど。  でもさやちゃんは、そんなのを期待してたんだ。  それなのにボクったら、他のことに気を取られて…。  なんでボクってこうなんだろ…。  いまさっきだって、さやちゃんがプールサイドにいそうなこと、気づいてもいいのに…。 「ごめんね…」 「オニが捕まえられるなんて、…マヌケもいいところよ……」  泣いてるのかな…。  さやちゃんの肩、小刻みに震えてた。 「ボ、ボク、次はがんばるよ。  泳げるようにもなってみせるよ!」  だから、泣かないで…。  って、いおうとしたら、ボクの顔に海水パンツが投げつけられた。 「よくいったわ!  その言葉、覚えてなさいよっ?!  泳げるようになるまで、あたしが扱き倒してあげるんだからっ!」  さやちゃん、ニカッと満面の笑みで笑ってた。 // ニカッとさやちゃん // {{ref_image 06_saya_nk_s.jpg,evPic}} {{ref_image 06_saya_nk.jpg,evPic}} //--  ボクはなんとも、キツネにツマまれた気分で、顔の海水パンツを受け止めてた。  フェンスで干されてた海水パンツは、パリパリに乾いていて、塩素のニオイがまったくしてなかった。  ちゃんと洗ってくれたんだ…さやちゃん…。  うん。そうだね。  ヘンだよね、ボク。  さやちゃんに海水パンツを洗ってもらって、それがなんか、とってもうれしいんだ。 //  下着同然のものなのに。フツーなら恥ずかしく思うのにね! //-- 「ポッチー、食べる?」  ボクはさやちゃんの隣に腰掛けると、ランドセルからポッチーを取り出した。 「なに味?」 「ほろにがビター味」  小袋を開けてあげると、さやちゃんは一本とって、ポキンと食べた。 「おいしい?」 「まぁ、まぁ、ね」  ボクも一本とって、ポキンと食べた。  夕日を見つめながら、ふたりでポリポリ。  ほろにがビター味は、そんなに苦く感じなかった。 「市川さん、どうだった…?」  さやちゃんに聞かれて、ボクはなんとも返事がしづらい。 「う、うん…」 「ナニが、うん、なのよ?  気持ちヨカったの? どうなの?」 「う、うん…ょ、ょかった…よ…?」  さやちゃんは大げさなため息をついた。 「オトコって、そんなモンよね〜」  ポッチーをポキン!  ボクはおちんぽを折られた気分…。 「で、でも、さやちゃんとの方が、気持ちヨカッたよ?」 「白々しい〜」  あぅ…。  「じゃ、これからヤリくらべてみようよ」なんていったら、ヤブヘビだよね…。  おちんぽもショボンだよ。 「ま。捕まえきれなかったあたしもわるいんだし。  今度から首輪と鎖をつけることにするわ」 「それじゃ、まるっきり犬だね」  苦笑いでそういったら、さやちゃんは目を丸くした。 「忘れたの? アンタ、あたしのポチ子じゃない。  “ハジメ!”っていわれたら、一所懸命、腰を振るのよ?」  もう…アレ、冗談じゃないんだもんね…。  ボクもいつのまにか、ソの気になっちゃうんだけどサ…。 「で? ちゃんと、イカせてあげた?」 「たぶん…。  気持ち…ヨカッたって…」 「フンッ!」  さやちゃんは勝ち誇ったみたいに、鼻息を飛ばした。 「あったり前じゃない!  あたしの“ハジメ”なんだから!」  ボクは目をパチクリ。 「怒られると思ったよ…」 「怒ってるわよ」  コツンって、ボクの頭にゲンコツをのせた。 「でも、市川さんをイカせてあげなかったら、もっと怒ってたわ。  こんな程度で早川 鞘子はイッちゃうの〜?  なぁ〜んて、アンタが莫迦にされたら、クツジョクだもの」  うん。それはわかるよね。  ボクも大好きな人が莫迦にされたら悔しいもの。  ……大好きな人? 「んと、ボクが莫迦にされると、悔しいの…?」  聞き直したら、さやちゃん、顔が真っ赤になっちゃった。 「ス、スルならイカせて、あたしを羨ましがるくらいヤりなさい、ってコトよ!  な、なによ…ニヤニヤして…」  そりゃ、ニヤニヤしちゃうよ。  だって、ボクがさやちゃんを慌てさせるなんて、珍しいことだもん。 // 「んとね。 「あのね。 //--  プールで、清太くんたちが水着審査してたんだ」 「ナニそれ? ホントにガキね!」 「さやちゃん、平均69点だったよ?」  さやちゃん、ムッと鼻に皺寄せちゃった。 「それって、高いの? 低いの?」 「どうだったかな…」  ボクはわざとしらばっくれた。 「ボクも点数を聞かれたんだけど…知りたい?」 「……」  さやちゃん、押し黙っちゃった。  聞くか聞くまいか、迷ってるみたい。 「…お……興味ないわ! くっだらないっ!!」  ボクはとっても可笑しくなっちゃった。 // 「なによ」 「さやちゃん、やっぱり一番かわいいよ!  百点満点つけて正解だったね!!」  さやちゃんはおもしろくなさそうに、顔を背けてポッチーをポキン! 「……ばか」  呟いたさやちゃんの耳は、真っ赤だった。 //プール・サイド {{ref_image BG33b_80.jpg,bgPic}} //-- {{metainfo}}