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はじめての鬼ごっこ


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【@右巻きソフトウエア】 「初・体験教室」 「ま〜めいど★ハンター」 「怖くない怪談」 「ないしょのえろカタログ」

はじめての鬼ごっこ 5


 その日の放課後、ボクはさやちゃんを探してた。
 正確には、休み時間も昼休みも、放課後も。
 でも教室にも、いつも落ち合う図書室にもいないし、校内を探し回ってもいないんだ。
 やっぱり、怒って帰っちゃったのかな…。
 うん。そうなんだ。
 プールでのコト。きっと怒ってるよね?
 だから、謝ろうと思って。
 さやちゃんの大好きなポッチーも、ちゃんと用意したんだよ?
 これでご機嫌、直してくれるといいんだけど。
 じゃないと次のプール授業、フルチンで出席になっちゃう。
 うん。海水パンツ、まだ返してもらってないんだ…。

 結局、さやちゃんは見つからずじまい。
 ボクはため息をついて、オレンジ色に染まった下駄箱で、靴を履き替えてた。
 さやちゃんには、後で電話してみよう…。
 校庭に出ると、傾いた夕日がとても眩しかった。
 ボクは手をかざして日差しを遮ると、不思議なものを見つけたんだ。
 プールのフェンスに、人影と海水パンツの影。
 ボクは走って校庭を横切り、まっすぐにプールへ向かった。
 入り口の柵には鍵がかかってて、そこからは入れなかった。
 ボクはランドセルをしょったまま、側の木からフェンスに飛びつき、その高いフェンスをよじ登り、乗り越え、ようやくプールサイドへ飛び下りた。

 たぷん、たぷん…。
 オレンジ色の水面が、静かに囁く。
 さやちゃんはフェンスにへばりつくようにして、校庭を見つめたまま、こっちにオレンジ色の背中を向けてた。
 さやちゃん、水着のマンマだった。
「ハジメのこと、待ってたんだからね…」
 もしかして、プールの授業から、ずっと…?
「他の子を押し退けて、あたしを捕まえてくれると思ってた…。
 誰よりも真っ先に、捕まえてくれると信じてた…」
 “待ってた”って、鬼ごっこのことか。
 そっか…。さやちゃん、ボクに捕まえて欲しかったんだ…。
 お姫様を助け出す王子様。
 チビでモヤシのボクには、似合わない役柄だけど。
 でもさやちゃんは、そんなのを期待してたんだ。
 それなのにボクったら、他のことに気を取られて…。
 なんでボクってこうなんだろ…。
 いまさっきだって、さやちゃんがプールサイドにいそうなこと、気づいてもいいのに…。
「ごめんね…」
「オニが捕まえられるなんて、…マヌケもいいところよ……」
 泣いてるのかな…。
 さやちゃんの肩、小刻みに震えてた。
「ボ、ボク、次はがんばるよ。
 泳げるようにもなってみせるよ!」
 だから、泣かないで…。
 って、いおうとしたら、ボクの顔に海水パンツが投げつけられた。
「よくいったわ!
 その言葉、覚えてなさいよっ?!
 泳げるようになるまで、あたしが扱き倒してあげるんだからっ!」
 さやちゃん、ニカッと満面の笑みで笑ってた。

 ボクはなんとも、キツネにツマまれた気分で、顔の海水パンツを受け止めてた。
 フェンスで干されてた海水パンツは、パリパリに乾いていて、塩素のニオイがまったくしてなかった。
 ちゃんと洗ってくれたんだ…さやちゃん…。
 うん。そうだね。
 ヘンだよね、ボク。
 さやちゃんに海水パンツを洗ってもらって、それがなんか、とってもうれしいんだ。
 下着同然のものなのに。フツーなら恥ずかしく思うのにね!
「ポッチー、食べる?」
 ボクはさやちゃんの隣に腰掛けると、ランドセルからポッチーを取り出した。
「なに味?」
「ほろにがビター味」
 小袋を開けてあげると、さやちゃんは一本とって、ポキンと食べた。
「おいしい?」
「まぁ、まぁ、ね」
 ボクも一本とって、ポキンと食べた。
 夕日を見つめながら、ふたりでポリポリ。
 ほろにがビター味は、そんなに苦く感じなかった。
「市川さん、どうだった…?」
 さやちゃんに聞かれて、ボクはなんとも返事がしづらい。
「う、うん…」
「ナニが、うん、なのよ?
 気持ちヨカったの? どうなの?」
「う、うん…ょ、ょかった…よ…?」
 さやちゃんは大げさなため息をついた。
「オトコって、そんなモンよね〜」
 ポッチーをポキン!
 ボクはおちんぽを折られた気分…。
「で、でも、さやちゃんとの方が、気持ちヨカッたよ?」
「白々しい〜」
 あぅ…。
 「じゃ、これからヤリくらべてみようよ」なんていったら、ヤブヘビだよね…。
 おちんぽもショボンだよ。
「ま。捕まえきれなかったあたしもわるいんだし。
 今度から首輪と鎖をつけることにするわ」
「それじゃ、まるっきり犬だね」
 苦笑いでそういったら、さやちゃんは目を丸くした。
「忘れたの? アンタ、あたしのポチ子じゃない。
 “ハジメ!”っていわれたら、一所懸命、腰を振るのよ?」
 もう…アレ、冗談じゃないんだもんね…。
 ボクもいつのまにか、ソの気になっちゃうんだけどサ…。
「で? ちゃんと、イカせてあげた?」
「たぶん…。
 気持ち…ヨカッたって…」
「フンッ!」
 さやちゃんは勝ち誇ったみたいに、鼻息を飛ばした。
「あったり前じゃない!
 あたしの“ハジメ”なんだから!」
 ボクは目をパチクリ。
「怒られると思ったよ…」
「怒ってるわよ」
 コツンって、ボクの頭にゲンコツをのせた。
「でも、市川さんをイカせてあげなかったら、もっと怒ってたわ。
 こんな程度で早川 鞘子はイッちゃうの〜?
 なぁ〜んて、アンタが莫迦にされたら、クツジョクだもの」
 うん。それはわかるよね。
 ボクも大好きな人が莫迦にされたら悔しいもの。
 ……大好きな人?
「んと、ボクが莫迦にされると、悔しいの…?」
 聞き直したら、さやちゃん、顔が真っ赤になっちゃった。
「ス、スルならイカせて、あたしを羨ましがるくらいヤりなさい、ってコトよ!
 な、なによ…ニヤニヤして…」
 そりゃ、ニヤニヤしちゃうよ。
 だって、ボクがさやちゃんを慌てさせるなんて、珍しいことだもん。
「あのね。
 プールで、清太くんたちが水着審査してたんだ」
「ナニそれ? ホントにガキね!」
「さやちゃん、平均69点だったよ?」
 さやちゃん、ムッと鼻に皺寄せちゃった。
「それって、高いの? 低いの?」
「どうだったかな…」
 ボクはわざとしらばっくれた。
「ボクも点数を聞かれたんだけど…知りたい?」
「……」
 さやちゃん、押し黙っちゃった。
 聞くか聞くまいか、迷ってるみたい。
「…お……興味ないわ! くっだらないっ!!」
 ボクはとっても可笑しくなっちゃった。
「なによ」
「さやちゃん、やっぱり一番かわいいよ!
 百点満点つけて正解だったね!!」
 さやちゃんはおもしろくなさそうに、顔を背けてポッチーをポキン!
「……ばか」
 呟いたさやちゃんの耳は、真っ赤だった。


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