!!!はじめての鬼ごっこ //プール・サイド {{ref_image BG33a_80.jpg,bgPic}} //-- 「すばらしきかな、スク水天国…。  かぐわしき塩素の香りがまた格別…」 「ナニに興奮してんだよ、オヤジ…」  スク水天国かはどうでもよくて。  ボクはもうヘトヘト…。  休憩タイムにうつ伏せになると、そのまま身動きできなくなっちゃった。 「大丈夫か? 鈴代?」 「うん…ダメ……」  清太くんたちが心配してくれるけど、返事をするのもやっと。  コップ何杯分の水を飲んだかな…。  小田先生ったら、いきなり25メートル泳がせるんだもん…。 「浮力はね、自分の体が水を押しのけるから生まれるんだ。 //  だからチビでモヤシのボクは、浮力が少なくて水に浮かばないんだよ。  だからチビでモヤシのボクは、浮かぶだけの浮力が生まれないんだよ。 //--  ボクに泳げっていうのは、亀の腕立て伏せだよ…」  誰にいうともナシに呟くと、清太くんが感嘆の声を漏らした。 「へ〜。  亀って腕立てできるんだな〜」 「さすが鈴代は博学だな。勉強になった!」 「うん、うん」  いや、そうじゃなくてね…。  ボクは説明しなおす元気もなかった。 「でもスゲェよな」 「うん」 「バタアシの潜水で、15メートル泳いだヤツ、初めて見た」 「息継ぎナシだもんな…」  半分、溺れてたんだけどね…。  甲羅乾しをしながらボクは、見学席に目を向けてた。  姫川さんが黒い子猫を膝にのってけて、その背中を撫でていた。  いいなぁ…。ボクも見学にすればよかったよ…。  今日はあと何杯分、塩素くさい水を飲むことになるんだろ…。  授業前のワクワクはどこへやら。  プール授業は、また憂鬱な授業に逆戻り。  はぁ…ボクって、なんでこうなんだろうね…。  重いため息をついていると、清太くんたちがヒソヒソ、相談をしていた。 「おい。そろそろいいんじゃね?」 「他の男子にもいってあるぜ」 「ウチの女子もオッケーだ」  どうやら、なんか始める気らしいね。 「でもよ、鈴代はヘタばったマンマだぜ?」 「ボクのことは気にしなくていいよ」  プールサイドのあったかい床にペッタリしてたら、少し元気が出てきた。 「そっか? じゃ、やっか」  清太くんが膝を打つと、みんなはニンマリ、笑みを浮かべた。 「先生っ! “鬼ごっこ”しようよっ!!」  口に手をあて、清太くんが小田先生に声をかけた。 「プールでやってみたーい」  続いて、他の男子からも口々に声があがった。  女子からも何人か、そんな声があがってた。 「“鬼ごっこ”しよ〜、しよ〜」  そんな合唱がプールサイドで繰り返されて、ちょっとした騒ぎ。  “鬼ごっこ”って、なんだろ…?  うん。鬼ごっこくらい、知ってるよ?  ただ、清太くんたちがいうからには、フツーの鬼ごっこじゃないだろうってこと。  ねだっているのは、隣のクラスの子がほとんどだから、小田先生のクラスでは有名な遊びみたいだね。  小田先生が頭を掻いて、ゆり先生を見ると、ゆり先生はいつのまにか、オレンジ色の競泳水着になってた。 //ゆり先生水着 {{ref_image 06yuri.jpg,evPic}} //-- 「ゆぅ〜りぃ〜〜」 「うふふ。わたしも“鬼ごっこ”、シてみたいし。  もともと、自由時間の予定だったでしょ?  ちゃんと準備もしておいたの」 「昨日のスープね…」 「うふふ。さやちゃん先生も、シたいわよね〜?」  小田先生はチョコンと肩をすくめると、笛を吹いてみんなの注目を集めた。 「いい? 今日だけ、特別よ〜?」 // 「は〜いっ!」 「わ〜いっ!」 //--  男子も女子も、ワクワクしながら手をあげてた。 「じゃ、男子はこっちの飛び込み台に集まって。  女子は向こう側の折り返しね」  小田先生にいわれた通り、ボクらはワイワイ、きゃあきゃあと、かしましく移動をはじめた。  そしてみんなの移動がすむと、小田先生は笛を吹いてから説明をはじめた。 「“鬼ごっこ”のルールは簡単!  男子がオニになって、女子を追いかけるの」  ふ〜ん。意外とフツーなんだね。 「男子に掴まったら、えっちされちゃうわよ〜♪」  「きゃー♪」って、女の子から声があがった。  うん。ぜんぜん、嫌がってる風じゃなかったね。  もちろん、男子も同じ。むしろ嬉々としてた。 「プールでやるのははじめてだけど、タマに体育館でやるんだ。  きゃあきゃあ、逃げる女子を追いかけるの、楽しいんだぜ〜♪」  ニカッて笑って、清太くんが教えてくれた。 //  なるほど。清太くんたちがやりたがったワケだね。  ボクもちょっと、ワクワクしてきちゃった。 //-- 「時計回りにプールを三周してからスタートね?  いい? 男子も女子もよ?」  飛び込み台に立って、小田先生が追加の説明を続ける。 「三周したら、逆走しても横切ってもかまわないわ」 「は〜い!」  って、みんなが手をあげて返事をした。 「捕まったら、プールからあがること。  いい? プールの中でシちゃダメよ〜?  スルときは、プールサイドに上がるの。  水を取り替えるの、タイヘンなんだからね?」 「は〜い!」 「それと乱暴なこと、危険なこともしちゃダメ!  ケンカなんかしたら、裸で校庭十周よぉ〜?」 「は〜い!」 「シたくない子は、プールからあがってね。  バスタオルを肩にかけたら、棄権の印。  男子は手を出しちゃダメよ?  女子も襲っちゃダメ!」  みんなはクスクス笑いで返事をした。 「じゃ、プールに入って!」  小田先生の掛け声と共に、みんなは歓声をあげてプールへ飛び込んだ。  まずは三周、ボクらはプールの外周に沿って泳いだ。  正確にいうと、水を掻き分け歩く、だけどね。  ずっと泳ぎ続けるのは無理だもの。  そしたら、二周くらいしてからかな?  プールの中に水流が生まれたんだ。  泳がなくても、立っているだけで流されちゃう。  緩やかに見えて、けっこうな力なんだ。  おもしろいね〜。  学校のプールでも、流れるプールができるんだ。  泳ぎが苦手なボクも、なんだか泳ぎがうまくなったみたい。 「それじゃ、スタート!」  プールサイドの小田先生が、パンッと手の平を打ち合わせ、男子は一斉に泳ぐ速度を早めた。 // //-- {{metainfo}}