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はじめての鬼ごっこ


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【@右巻きソフトウエア】 「初・体験教室」 「ま〜めいど★ハンター」 「怖くない怪談」 「ないしょのえろカタログ」

はじめての鬼ごっこ



「すばらしきかな、スク水天国…。
 かぐわしき塩素の香りがまた格別…」
「ナニに興奮してんだよ、オヤジ…」
 スク水天国かはどうでもよくて。
 ボクはもうヘトヘト…。
 休憩タイムにうつ伏せになると、そのまま身動きできなくなっちゃった。
「大丈夫か? 鈴代?」
「うん…ダメ……」
 清太くんたちが心配してくれるけど、返事をするのもやっと。
 コップ何杯分の水を飲んだかな…。
 小田先生ったら、いきなり25メートル泳がせるんだもん…。
「浮力はね、自分の体が水を押しのけるから生まれるんだ。
 だからチビでモヤシのボクは、浮かぶだけの浮力が生まれないんだよ。
 ボクに泳げっていうのは、亀の腕立て伏せだよ…」
 誰にいうともナシに呟くと、清太くんが感嘆の声を漏らした。
「へ〜。
 亀って腕立てできるんだな〜」
「さすが鈴代は博学だな。勉強になった!」
「うん、うん」
 いや、そうじゃなくてね…。
 ボクは説明しなおす元気もなかった。
「でもスゲェよな」
「うん」
「バタアシの潜水で、15メートル泳いだヤツ、初めて見た」
「息継ぎナシだもんな…」
 半分、溺れてたんだけどね…。
 甲羅乾しをしながらボクは、見学席に目を向けてた。
 姫川さんが黒い子猫を膝にのってけて、その背中を撫でていた。
 いいなぁ…。ボクも見学にすればよかったよ…。
 今日はあと何杯分、塩素くさい水を飲むことになるんだろ…。
 授業前のワクワクはどこへやら。
 プール授業は、また憂鬱な授業に逆戻り。
 はぁ…ボクって、なんでこうなんだろうね…。
 重いため息をついていると、清太くんたちがヒソヒソ、相談をしていた。
「おい。そろそろいいんじゃね?」
「他の男子にもいってあるぜ」
「ウチの女子もオッケーだ」
 どうやら、なんか始める気らしいね。
「でもよ、鈴代はヘタばったマンマだぜ?」
「ボクのことは気にしなくていいよ」
 プールサイドのあったかい床にペッタリしてたら、少し元気が出てきた。
「そっか? じゃ、やっか」
 清太くんが膝を打つと、みんなはニンマリ、笑みを浮かべた。
「先生っ! “鬼ごっこ”しようよっ!!」
 口に手をあて、清太くんが小田先生に声をかけた。
「プールでやってみたーい」
 続いて、他の男子からも口々に声があがった。
 女子からも何人か、そんな声があがってた。
「“鬼ごっこ”しよ〜、しよ〜」
 そんな合唱がプールサイドで繰り返されて、ちょっとした騒ぎ。
 “鬼ごっこ”って、なんだろ…?
 うん。鬼ごっこくらい、知ってるよ?
 ただ、清太くんたちがいうからには、フツーの鬼ごっこじゃないだろうってこと。
 ねだっているのは、隣のクラスの子がほとんどだから、小田先生のクラスでは有名な遊びみたいだね。
 小田先生が頭を掻いて、ゆり先生を見ると、ゆり先生はいつのまにか、オレンジ色の競泳水着になってた。

「ゆぅ〜りぃ〜〜」
「うふふ。わたしも“鬼ごっこ”、シてみたいし。
 もともと、自由時間の予定だったでしょ?
 ちゃんと準備もしておいたの」
「昨日のスープね…」
「うふふ。さやちゃん先生も、シたいわよね〜?」
 小田先生はチョコンと肩をすくめると、笛を吹いてみんなの注目を集めた。
「いい? 今日だけ、特別よ〜?」
「わ〜いっ!」
 男子も女子も、ワクワクしながら手をあげてた。
「じゃ、男子はこっちの飛び込み台に集まって。
 女子は向こう側の折り返しね」
 小田先生にいわれた通り、ボクらはワイワイ、きゃあきゃあと、かしましく移動をはじめた。
 そしてみんなの移動がすむと、小田先生は笛を吹いてから説明をはじめた。
「“鬼ごっこ”のルールは簡単!
 男子がオニになって、女子を追いかけるの」
 ふ〜ん。意外とフツーなんだね。
「男子に掴まったら、えっちされちゃうわよ〜♪」
 「きゃー♪」って、女の子から声があがった。
 うん。ぜんぜん、嫌がってる風じゃなかったね。
 もちろん、男子も同じ。むしろ嬉々としてた。
「プールでやるのははじめてだけど、タマに体育館でやるんだ。
 きゃあきゃあ、逃げる女子を追いかけるの、楽しいんだぜ〜♪」
 ニカッて笑って、清太くんが教えてくれた。
 なるほど。清太くんたちがやりたがったワケだね。
 ボクもちょっと、ワクワクしてきちゃった。
「時計回りにプールを三周してからスタートね?
 いい? 男子も女子もよ?」
 飛び込み台に立って、小田先生が追加の説明を続ける。
「三周したら、逆走しても横切ってもかまわないわ」
「は〜い!」
 って、みんなが手をあげて返事をした。
「捕まったら、プールからあがること。
 いい? プールの中でシちゃダメよ〜?
 スルときは、プールサイドに上がるの。
 水を取り替えるの、タイヘンなんだからね?」
「は〜い!」
「それと乱暴なこと、危険なこともしちゃダメ!
 ケンカなんかしたら、裸で校庭十周よぉ〜?」
「は〜い!」
「シたくない子は、プールからあがってね。
 バスタオルを肩にかけたら、棄権の印。
 男子は手を出しちゃダメよ?
 女子も襲っちゃダメ!」
 みんなはクスクス笑いで返事をした。
「じゃ、プールに入って!」
 小田先生の掛け声と共に、みんなは歓声をあげてプールへ飛び込んだ。

 まずは三周、ボクらはプールの外周に沿って泳いだ。
 正確にいうと、水を掻き分け歩く、だけどね。
 ずっと泳ぎ続けるのは無理だもの。
 そしたら、二周くらいしてからかな?
 プールの中に水流が生まれたんだ。
 泳がなくても、立っているだけで流されちゃう。
 緩やかに見えて、けっこうな力なんだ。
 おもしろいね〜。
 学校のプールでも、流れるプールができるんだ。
 泳ぎが苦手なボクも、なんだか泳ぎがうまくなったみたい。
「それじゃ、スタート!」
 プールサイドの小田先生が、パンッと手の平を打ち合わせ、男子は一斉に泳ぐ速度を早めた。

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