!はじめてのお昼会議  ボクは昼休みに、校庭の隅にある大鉄棒へ向かってた。  体験倶楽部と“ホテル”のことを、みんなに話しにいくんだ。  みんなを集めるのははじめてなのに…それがわるい知らせなんて…ハァ…。  ボクの足どりは重く、小田先生の言葉を思い出してた。 「それでね。体育館の舞台地下を、活動場所にしようかと思ってね。  ほら、演劇部ってなくなっちゃったでしょ?  ちょうどいいかと思ってね」  うん。そうなんだ。  それで小田先生は、舞台地下を調べてたってワケ。  でも活動場所にするってことは、“ホテル”を取り上げられちゃうってことだよ…。  “ホテル”はボクら生徒が作った、みんなのもの。  ホコリだらけだったのを、みんなで掃除して、気持ちよく使えるように整えていったんだもん。  話したらみんな、怒るだろうなぁ…。  ハァ…気が重い…。ため息でちゃうよ…。 // {{ref_image 03sumi sora.jpg,evPic}} //--  集合場所には{{ruby "清太","せいた"}}清太くんたち、――“ホテル”の主要メンバーがもう集まってた。 //  ボクって食べるの遅いから、急いだんだけどね。  隣のクラスは、次は体育の時間みたいで、みんな体操着を着ていた。  もちろん、さやちゃんも一緒で、大鉄棒の上にいた。  砂場のそばの大鉄棒はとても高くて、飛び上がっても、ボクの背丈じゃ手が届かないんだ。  さやちゃんはそんな高いトコに座って、くるん、くるんって回ってた。  すごいよね。逆上がりだって苦手なボクと大違い。  さやちゃんは運動も得意なんだ。 「まあ、しょうがねぇな」  みんなに話したら、意外とスンナリ受けいれられた。 「気にすることねぇよ!」  そういって清太くんは、ボクの背中を叩いてくれた。  清太くんは体験教室で知り合って、はじめての友達になってくれた男の子。  ボクと正反対のわんぱくなガキ大将タイプだけど、なんとなく気が合うんだ。 「倶楽部に取られたのは、鈴代たちのせいじゃねぇし。  見つかったのも運がわるかっただけだし。  な? みんな?」 「そうだな」って、他のみんなもいってくれた。 「職員会議でも話しが出てたみたい。  サボッてる子がいるみたいだって。  遅かれ早かれだったのね」  {{ruby "澄子","すみこ"}}ちゃんもフォローをしてくれた。  澄子ちゃんは背の高い、ポニーテールの女の子。  しっかりしていて、同学年とは思えないんだ。ひとつ上のお姉さんって感じ。 「むしろ早めにわかって、よかったじゃないか」 //  体格がいい{{ruby "大政","おおまさ"}}くんがいうと、体格のいいチビの{{ruby "小政","こまさ"}}くんはブスッと頷いた。 「あんまり、いい場所じゃなかったしな」 「かち合うこと、多かったし!」  {{ruby "半太","はんた"}}くんが同意するように、ニカッと笑う。  その半太くんと澄子ちゃんの間で、{{ruby "姫川","ひめかわ"}}さんがコクコク頷いてた。  姫川さんは低学年と間違えるくらいちっちゃいんだ。 //  だから背の高い澄子ちゃんたちと並ぶと、まるで隠れてるみたい。  だからみんなの間に立ってると、まるで隠れてるみたい。 ///--  ボクはみんなの様子を見てホッとした。  うん。どうやらみんなも、あの場所はあんまり気にいってなかったみたいだね。 「新しいホテル、探さなきゃな…」  顎に手を当てて、清太くんが唸った。 「オヤジ、いいとこ知らないか?」 「知ってる。  だが、素人にはオススメしない」 「オヤジ、それ、死語だぞ」  イガグリ頭のハンプティ・ダンプティみたいな男の子――オヤジくんが答えて、眠そうな目のゴローくんがツッコんだ。 「みんなで体験倶楽部に入ればいいんじゃね?  先生も公認なんだし、サ!」  半太くんが幅跳びよろしく砂場に飛び込んで、もうもうと砂ぼこりをあげた。 「莫っ迦じゃないの?」  風に流れた砂ぼこりに、澄子ちゃんが顔をしかめる。 「えっちできればいいってモンじゃないわ。  “ホテル”は、あたしたちの秘密基地よ?  先生たちオトナに、干渉されたくないわ」 「サボることできないしな」 「アンタはサボりすぎよ!」 「でもよ、もうアテなんかねぇぜ?」 「舞台地下だって、さんざん探した結果だモンなぁ〜」 「だよなぁ〜」  口々に意見が呟かれるけど、どれも半分、諦めた感じ。  見通しは暗いね…。  ボクは肩身がとても狭くて、シュンとうなだれちゃった。 「新しいホテルは、あたしが探すわ」  今まで黙ってたさやちゃんが、ふいに口を開いた。 「早川、アテでもあんのか?」 //  見上げる大政くんが聞くと、さやちゃんは、  まぶしそうに大政くんが見上げて聞くと、さやちゃんは、 //-- 「ないわよ」  っていって、くるん。  宙返りして大鉄棒から降り立った。  さやちゃんは気高い鷹みたいに、まっすぐ校舎を見つめてた。 「でも、見つかったのはあたしの責任だもの。  なんとか見つけるわ」 「ボ、ボクも探すよ!」  ボクは思わず、そういってた。  だって、さやちゃんだけの責任じゃないもの。  ううん。元はといえばボクが、サボッてみたいようなこといったのがいけないんだし。  そしたら、体験倶楽部に入らされることもなかったんだもん。 「みんなで探せばいいじゃない。  その方が早いし、誰の責任ってワケでもないんだから」  ニッコリした澄子ちゃんを、さやちゃんはなにもいわずに見てた。  そしたらちょうど、昼休みが終わるチャイムがなったんだ。  う〜ん。さやちゃんと澄子ちゃんって、あんまり仲がよくないのかな…?  うん。そうだよね。  話し合いの終わり間際、そんな感じだったよね?  さやちゃんって、愛想のいいタイプだと思うんだけどね…。  不思議に思ったボクは、授業へと歩きだす中、コッソリ澄子ちゃんに聞いてみたんだ。 「しょうがないわ。あたし、風紀委員だもの。 //  早川さんみたいに、規則がキライな人には好かれないわよ」  早川さんみたいな、一匹狼には好かれないわよ」  澄子ちゃんは肩をすくませてたけど…。  ボクには風紀委員が、ワルガキ連にいることも不思議なんだけどね。 // 下駄箱 {{ref_image BG15a_80.jpg,bgPic}} //--  それにしても…。  あの分じゃ、誰も体験倶楽部に入ってくれそうにないね。  うん。そうだね。  さやちゃんがいてくれればいいけど…なにか口実を作って出なさそう…。  そしたら倶楽部は、知らない子たちばかりかな。  はぁ…不安だなぁ…。  ボクもなにか、口実を考えといた方がいいかな…。  そうため息をついて。  上履きに履き替えてると、ゆり先生が話しかけてきたんだ。 // 下駄箱 ゆり先生 {{ref_image 03yuri.jpg,evPic}} //-- 「鈴代くん、お友達と遊んでたの?」  ゆり先生、ピンクのブラウスの上に白衣を羽織ってた。  有能なお医者さんみたいで、なんだかとってもカッコイイ。 「う、うん」  ボクは顔が赤くなる気がして、コックリ頷いた。  ゆり先生はうれしそうに、ニッコリしてくれた。 「そう。よかったわね」  {{ruby "緑川 ゆり","みどりかわ ゆり"}}先生は、ボクの担任の先生。  やさしくて、眼鏡の似合う金髪の美人で、みんなの憧れ。  もちろん、ボクもそう。  だからどうしても、赤面しちゃう。  うん。そうなんだ。  特別授業の後でも、このクセは治らないみたい。  うん…。もしかしたら、よけいにそうなっちゃったかも…。 「鈴代くん、体験倶楽部に入部するだってね。  さやちゃん先生から聞いたわ」  そういわれてボクは、ビクンっとしちゃった。  小田先生ったら、ゆり先生に話しちゃったんだ…もう…。サボッてたことまで伝わってなければいいけど…。  うん。小田先生とゆり先生は親友なんだ。  だから、つい話しちゃったんだと思う。  ちなみに、“さやちゃん先生”の出所はゆり先生。ゆり先生がそう呼んでるのが、みんなにうつっちゃったみたい。  ゆり先生はボクの前にしゃがんで、目線を合わせてくれた。  先生はボクたちひとりひとりに話すときに、そうしてくれるんだ。 「先生ね、みんなと協力してなにかするって、わるいことじゃないと思うの」 「でも…えっちでしょ…?」  協力してスルことなのかなぁ…。  ボクが首をひねると、先生は微笑を浮かべた。 「うふふ。それは集まる口実ね」 「こうじつ…?」 「うん。なにもなしに集まることって、ないでしょ?」  まぁ、そうだよね…。 「先生たちね、悩みを抱えてる子がね、気軽に立ち寄れる所を作ってあげたいの。  仲がいいから、よけいにいいにくいこともあるだろうし。先生にいえないこともあるでしょ?」  うん。それはわかるよね。  ボクも友達が欲しかったのに、どうしていいかわからなかったんだもの。 // 「だからそういう子が来たら、一緒に遊んで、鈴代くんも助けてあげてほしいの」 「だからそういう子が来たら、一緒に遊んで、心をかるくしてあげてほしいの」 //--  そう微笑まれて。ボクはなんだか頼られてるみたいな気がして、わるい気がしなかった。  それに、前に体験教室を勧めてくれたのは、ゆり先生だもの。  そのお陰で友達もできたし、さやちゃんにも出会えた。  だからボクは、ゆり先生のことをとっても信頼してるんだ。  うん。そうだよね。  先生がわるいことじゃないっていうなら、体験倶楽部も、きっといいことがあるハズだよ。 「うん! わかったよ、先生!  知らない子に混じるのは不安だけど…ボク、がんばってみるよ!」 「うふふ」  先生、微笑んで、ボクの頭を撫でてくれた。  なんだか、とってもうれしい。 「さやちゃん先生、強引だったでしょ?  でも恨まないでね?  卸したてのブラウス、汚されちゃったって、プンプンしてたの」  あ。そうだった。  ボク、小田先生のブラウス、汚しちゃったんだっけ。  そのことは謝ってないや。すっかり忘れてたよ。 //  お陰で、ジャージで会議に出なくちゃならなくなったって。うふふ。 //-- 「だからちょっとだけ、イジワルしたくなっちゃったんだって。  許してあげて、ね?」  それであんな、後味がわるいことになっちゃったのかな…?  さやちゃんもムキになる方だし…。  話しがヘンにこじれちゃったのかもしれないね。 「ボク、小田先生に謝らなくちゃ…」 「うん」  ゆり先生はニッコリ、頷いてくれた。 「それから、ゆり先生にも…。  ボク、授業を抜け出しちゃったんだ…」  うん。そうだね。黙ってればいいのかもしれないけど…。  ボクはゆり先生に、とっても後ろめたくなって、心が重く感じたんだ。  だって、悪いことをしたんだもん。自分から謝らなくちゃダメだよね? それで先生に、嫌われちゃうかもしれないけど…。 「ごめんなさい…せんせい…」  謝ったボクを、ゆり先生はふんわり抱いてくれた。 「鈴代くん、いい子ね。  先生、また鈴代くんが好きになっちゃった。うふふっ!」  ゆり先生はとても甘い、いい香りがした。 //  ボクもおちんぽがピョコンしちゃった。 //  おちんぽがピョコンしちゃった。  思わずおちんぽが、ピョコンしちゃった。 //--  ボクも先生の脇に手を回したら、あったかいぬくもりと、ブラウスの下のブラを見つけて、またおちんぽがピョコン!  う〜。なんだか、堪らなくなっちゃったよ〜。  そしたら先生は、ボクの唇に人指し指を立てたんだ。 「でも、もう授業をサボッちゃダメよ?  先生、キライになっちゃうから」 「う、うん。もうしない。  ごめんなさい!」 「うふふ。それじゃ、教室に行きましょう。  鈴代くん、この間の算数テスト、すごく点数がよかったわよ」  ゆり先生に褒められて、ボクは顔が熱くなっちゃった。 「さやちゃんが教えてくれたから…」 「うふふ」  考えてみたらボク、クラブ活動って、はじめてなんだよね。  うん。イロイロ悩みはあるけど、きっとわるいことばかりじゃないよね?  ゆり先生と手を繋いで、ボクはちょっと、前向きになっていた。 {{metainfo}}