!!!瑠歌と人魚姫 {{category 本編,白イルカの瑠歌,nolink}} !■ハンス(仮名)はげっそりであった。 // {{ref_image BG04a_80.jpg,pic}} //--  飛び猫・ニーヤに執拗に耳を舐め続けれ、ハンス(仮名)はまるで、生気を吸い取られた気分。 「ああ、怖かった…」 「あんたがわるいのよ、あんたがッ!  あたしと姫さまは、感応しやすいんだからね!」 「だからって、あんなこと……想定外だよ…」 「だから、止めたでしょッ!!」  口げんかをしながら、ハンス(仮名)とニーヤは入り江へ着いた。  ハンス(仮名)たちを見つけた瑠歌が、浜辺へ寄ってくる。 「あら。見つけちゃったのね、“白衣の天使”。  せっかくお坊さんの手配しといたのに、残念だわん〜」 「お坊さん?」 「見つかると思ってなかったからだわよ。  もーほーさん、見れたでしょ?」 「……その話しはしないで」  ウンザリのハンス(仮名)を見て、瑠歌はケケケッと底意地の悪い笑い声をあげた。 「ねぇ、瑠歌? “白衣の天使”ってなんなの?  ただの看護服じゃないみたいだけど…」  ハンス(仮名)の手から“白衣の天使”が浮かび上がり、瑠歌の真上へユラユラと漂う。  おそらくは、瑠歌が魔法かなにかで引き寄せたのであろう。 「これはタダの看護服じゃないんだわよ。  チン・ナイ・ゲーという、とても献身的な伝説の看護婦が着てたものなの」 「チン・ナイ・ゲー……」  なんとも、背筋に寒いものが走る名前である…。 「これを着た者は、“なんでもしてあげちゃいたい〜”という欲望に駆られる、それはそれはおそろしいアイテムなんだわよん…」 「た、たしかに、おそろしかった……」  ハンス(仮名)の呟きに、ニーヤはポッと赤くなった。 「でも…。  アタシのような、偉大な魔術師が着ると、あ〜ら不思議〜♪」  瑠歌はいったん海に潜ると、宙に飛び上がって“白衣の天使”をくぐり着た。 {{size 4," ぼわん。"}} // 瑠歌・看護婦 {{ref_image evRuka_ham.jpg,るかの診察室}} //-- 「どんなビョーキも、とたんに治せちゃうンだわね〜♪」  立ち上った白い煙から、看護婦姿の小さな女の子が現れた。  年の頃はスフィアよりも幼いくらいである。  ハンス(仮名)は女の子を指さし、目をパチクリ。 「……だれ?」  看護婦姿の女の子は、ハンス(仮名)のスネを思いっきり蹴りあげた。 「イタッ!」  スネを抱えるハンス(仮名)の横で、ニーヤが溜め息をつく。 「瑠歌よ」 「瑠歌?!」 「そうよ、瑠歌ちゃん。  忘れちゃったのん〜?」  イルカから人になった瑠歌は、ニヒヒっと意地の悪い微笑を浮かべた。 !■人魚姫は“封印の眠り”に入っていた。 // 瑠歌・看護婦 {{ref_image evRuka_gyok.jpg,るかの診察室}} //--  二人と一匹は、人魚姫の玉室へ来ていた。  ハンス(仮名)のビョーキを治す前に、瑠歌が人魚姫に会いたがったのである。 「ちょっと、席をはずしてくれるん」  瑠歌がそういうと、飛び猫はピクンと両耳を立てた。 「にゃあん〜っ」 「あ、ちょっと、待ってよっ!  飛び猫ったらぁ〜!」  走り去る飛び猫を追い、ハンス(仮名)は慌てて玉室から出ていった。  これで玉室にいるのは、人魚姫と瑠歌のふたりっきりである。 「さて」  玉室を見回してから、瑠歌は口を開いた。 「姫さま、聞いてるんでしょん?  今の状態なら、ちょっとだけでも“封印”を解けるはずよん〜」  人魚姫の眉がピクリと動いた。  そして、ゆっくりと瞼を開き、宝石のような瞳を見せる。 「あん! 姫さまん〜♪ 会いたかったわん〜♪」  喜々とした瑠歌が、親しげに人魚姫に抱きつく。  しかし人魚姫は、その抱擁に応えようともしなかった。 「なにをしに来たのですか、瑠歌?」 「あんもう、冷たいんだからン〜。  決まってるじゃないん」  瑠歌はニッコリすると、人魚姫に唇を近づける。 「……!」  人魚姫はギュッと目を瞑り、顔を背けた。 「くふふ〜。あいかわらずウブねん〜。  好きなの? あの、ぼうやのこと」 「……」  ふいの問いに、人魚姫の頬がさくら色に染まる。 「そうなんだ、やっぱり…」 「…ち、違います……」  瑠歌はニヒヒっと、底意地の悪い微笑を浮かべた。 「自力で“封印”を解けるようになるんだもん。  よっぽどなのねん。  どこがいいのん? あんな莫迦ッ!」 「……あなたには、わからないことです。  だから300才となっても、そのような姿を好んでいるのでしょう?」  瑠歌はあからさまにムッとなった。 「そうよ。わかりたくもないね。  欲望のために、アタシたちを狩る男たちなんて!!」 「世の殿方は、そのような下賤ばかりではありません」 「アイツがそうだっていうの?  300人も子供がいる、アイツが?  あははッ! おっかしい〜〜〜っ!」 //  ケラケラと莫迦笑いをひとしきり。 //-- 「アイツこそ、欲望の塊じゃないのかい?」  人魚姫は溜め息をついた。 「……有名なのですね…」  200人の妻と100人の妾、300人からの子供を持つ男。  その放蕩のせいで、国の財政を破綻させ、一国を売り飛ばした男。  それは否定しようのない事実。  そして人魚姫自身が持つ、ハンス(仮名)への不審の壁である。  しかし反面、知れば知るほど、ハンス(仮名)は世間がいうほどの女ったらしとも、極悪人とも思えなかった。  あけすけで愚直な極楽とんぼ。しかし何にも前向きで素直な明るい少年。  ハンス(仮名)を庇えない自分が、人魚姫はとても歯がゆかった…。 「フン!  アイツはあのまま狂い死にしたほうが、世のため、アタシたち人魚のためだと、思わないかい?」  ハッと顔をあげ、人魚姫は瑠歌を見つめた。 「約束を破る気ですか?」 「姫さまの返答次第」  ニヒヒっと瑠歌は笑みを浮かべた。 「だ・か・ら。  アタシの、可愛いお人形さんになってぇん〜♪」 「それはお断りしたはずです。  忘れたのですか?」  人魚姫は、グッと瑠歌を睨みつけた。 「わたくしにした“封印”のことも」 「だってぇん〜。  汚らわしい男どもに取られるの、イヤだったんだもん〜」 「そのことは、……少しは感謝しています。  正銘を知られることもなく、無事でいられるのですから…」 //  怪我の功名というべきか。  “封印の眠り”の貢献は、否定できないことである。 //-- 「いやん、感謝なんてん〜。  姫さまがソノ気なら、今すぐ“封印”を解いてもいいのよん〜?」 「ハンス(仮名)の命を救って下さい」 「……」  人魚姫と瑠歌の視線がぶつかる。  言葉もない静寂が続き、やがてひとつの声がそれをやぶった。 「あんな、莫迦でマヌケな女ったらしでも、死んだら泣く人はいるのよ。  あのウスラぼけの、300人の子供たちがそうかもしれないし――」  いつのまにやら、飛び猫が後ろに立っていた。 「あたしも、その一人よ」  飛び猫を睨む瑠歌は、突然、ハッとその眉をあげた。 「思い出した。  おまえ、あのときにいた…」  瑠歌が呟くと同時に、息を切らせたハンス(仮名)が玉室へ入ってきた。 「まってよ、飛び猫……。  …もう、……走れないよ……」  ゼイゼイ、ヘトヘトのハンス(仮名)を見て、人魚姫はなにごともなかったように笑った。 「うふふ。ずっと、後を追っていたの?  飛び猫に勝てる人なんていなくてよ、ハンス(仮名)」 「にゃあ」  表彰台に飛びのるように、飛び猫は人魚姫の膝へ上がった。  人魚姫がその頭を撫でると、飛び猫はゴロゴロと喉を鳴らした。 「もう、話しは終わったの?」  一息ついたハンス(仮名)に、人魚姫がニコリと微笑む。 「はい。  ハンス(仮名)のお陰で、久しぶりに楽しいひとときを過ごせましたわ」 「いやぁ、ボクのお陰なんて…そんなぁ……」  ぐねぐね、ダラしなく、ハンス(仮名)が照れる。  人魚姫はハンス(仮名)への微笑を、瑠歌へ向けた。 「瑠歌。約束を、はたしてくださいますね?」  瑠歌がブスッと、口を尖らせる。 「ぶぅ……わかってるわよん。  行くわよん、ハンス(仮名)」 「う、うん」  踵を返す瑠歌に、人魚姫が再び声をかける。 「瑠歌、信じてますよ」 「……コイツとは関係なしに、解いてやってもいいのよん?」 「ありがとう、瑠歌。でも……。  わたくしはしばらく、このままがいいのです」  人魚姫の微笑は、どことなく幸せそうであった。 //{{counter2 mer03Count}}