!!!人魚姫の決着 {{category 本編,鋼鉄の人魚・アクア,nolink}} !■ガンスが人魚姫に会いに来ていた。 {{ref_image le_bath01a_b.jpg,pic}} // 「麗しの姫君。  今日はお知らせしたいことがございます」  ふたりっきりの玉室。  ガンスが片膝をつき、大げさな一礼をすると、人魚姫はにこやかな微笑を浮かべた。 「わたくしもお会いしたく思っておりました。  ひとつ、お聞きしたいことがあります」 「なんなりと」  ガンスは人魚姫の手を取ると、ニコリと前歯を光らせた。 //-- 「わたくしの声は、殿方をくすぐるとか…。  そのような不思議な力があるのでしょうか?」  ガンスの顔色が変わった。 「も、もちろんですとも。  竪琴のようなあなたの美声は、わたしの心を狂おしいほどまでに震わせます」 「たとえ竪琴といえど、海の音ほどの力はありません」 「女神の竪琴には、海を静める力があると聞きます」  食い下がるガンスに、人魚姫は再び微笑んだ。 「背中の傷は、もうよろしいのですか? //  飛び猫の牙は鋭いのですよ。 //  前もって注意しておいた方がよかったようですね」  飛び猫の牙は鋭いのですよ」 //--  ガンスは、大きな欠伸をする飛び猫を睨んだ。 「姫さま、誤解です。  その猫がなにをいったのは知りませんが――」 「飛び猫はわたくしの、かけがえのない親友です。  ハンス(仮名)とともに、もっとも信頼のできる者です」 「姫さまはたぶらかされているのです!  ハンス(仮名)ごとき女ったらし、なにをもって信用なさいますか?!」 //  パンッ! {{size 4," パンッ!"}} // {{ref_image hime_ag.jpg}} //-- 「無礼ですよッ!」  ガンスの頬が赤く染まる。 「これで満足したでしょう。  退がりなさい!」 //  ガンスの形相が一変した。  そこにはもう、礼節をわきまえた、ハンサムな王子の面影はない。 「この、たかが人魚風情が!!」 「その人魚風情に、あなたはなにをいったのですか?  よく歯が浮かないものですね。  それとも、その若さで入れ歯というのは、本当なのですか?」  ガンスは残虐な笑みで頬を歪めた。 「フフッ…ゾクゾクするよ、人魚姫…。  僕は大好きなんだ…。  プライドだけは高い、高慢な奴隷人魚を痛めつけるのがね。  その可愛い口から、赤い糸が垂れ下がることを思うとね……  堪らないんだッ!」  毅然と見据える人魚姫に、ガンスが拳を振り上げる。 {{size 4," どすんッ!"}}  乱暴に荷物を落とす音がすると、ガンスは床に背をつけて倒れていた。  どうしてそうなったのか理解できず、ガンスはしばし、ポカンとハンス(仮名)を見上げていた。 「未練だよ。  色男は去るときも、バラを散らせるもんでしょ?」  いつのまに現れたのか。  ハンス(仮名)が、ガンスの手首を絡め、投げ落としていたのである。 「ハンス(仮名)! またおまえかッ!  いつもいつも小さい頃から、俺さまの邪魔ばかりしやがって!」 「小さい頃から、体術は得意だったよ。  何度も投げ飛ばしたこと、忘れたの?」  ニッコリ微笑むハンス(仮名)は、“何度でもそうしてやる”といっていた。 「クッ! 減らず口たたきやがって…っ…!」  痛む後頭部を抑え、フラつきガンスが立ち上がる。  護衛もいない状況では、ガンスに勝ち目はない。  しかも、ここはギルドの館である。  非がどちらにあるにせよ、荒立ったことをすれば、大事は避けられまい…。  冷静さを失っても、臆病者というものは、その辺の計算ができるものである。 //-- 「お、覚えてろよッ!!  借りは必ず返すからなッ!!」  捨て台詞を吐き捨て、ガンスが足早に玉室を出て行く。  と。戸口から出た箒の枝に躓き、無様に転んだ。 「くぅ〜……」 //  ガンスは向こう脛の痛みに、玉の涙。  ビタンっ! と見事に突っ伏したガンスは、向こう脛の痛みに、玉の涙。 //-- 「あ。ごめんなさい。スフィア、気づかなかったの。  大丈夫?」  箒を持ったスフィアは、ニッコリ近づき、ガンスの手をワザと踏んだ。 「ぎゃあぁぁぁッ!!」 「ごめんねぇ〜!  スフィア、汚いからゴミかと思っちゃった〜! てへっ!」  ミジメなガンスは、背中を丸めてすすり泣き。 「お、覚えてろぉ〜!  パパたちにいいつけてやるぅ〜ッ!!」  涙を吹き流しのようにのばし、ガンスは廊下に消えた。 // {{ref_image hime_niko.jpg}} //-- 「少々、かわいそうですね」  くすくすと人魚姫は笑っていた。 //  そんな笑顔は初めて見るような気がして、ハンス(仮名)はとてもうれしかった。 //-- 「でも、そうもいってられないよ。  どんな恨みも忘れないんだから。アイツってヤツは」  ハンス(仮名)が肩をすくめると、人魚姫の笑みがフッと途切れた。 「わたくしも、人を見る目はまだまだ未熟ですね。  言い寄ってくる者はみな、ガンスのような輩ばかりだと解っているのに…」  人魚姫は溜め息をつくと、ハンス(仮名)に微笑を向けた。 「ハンス(仮名)、素敵でしたよ」 「い、いやぁ〜あ!」  ハンス(仮名)は途端に、デレデレ、クネクネ。  いつもはダラしなく思える動作も、人魚姫は、今日ばかりは気にならなかった。  そればかりか、照れまくるハンス(仮名)が、とても頼もしく感じた。 //-- 「投げ飛ばした後の台詞も。本当に素敵でした。  ああいったこと、……たまにお聞かせください…」  はにかみ人魚姫は、ぽっと頬を桜色に染めた。 “アンタもたまには、姫さまにいってあげなさいよ”  と、ハンス(仮名)の脳裏に飛び猫の言葉が思い出された。  そしてゴクンと唾を呑み込むと、緊張の口を開いた。 「き、君の瞳は春を呼ぶ、東風。  ボクの心を、サカリのついた猫のように、騒がせる。  月に向かって、にゃおーん。  満月に向かってわぉーん。  星の下で、ぽんぽこりん〜♪  今日も宴会、どんちゃん騒ぎ」  目が点になる、人魚姫。  ヤレヤレと溜め息をついて下がる、スフィア。  付き合ってらんないと立ち去る、飛び猫。  白けた空間に、ふたりは取り残された。 「ダメ……?  なんか、こう、歯が浮いてきちゃって……。  歯抜いてくる」  いたたまれず、去ろうとするハンス(仮名)の手を人魚姫が繋ぎ止める。 「…無理しないで……」  俯く人魚姫が、自然なことのように、ハンス(仮名)の手にキスをする。 // 「華美に飾った言葉は、あなたには似合いません…」 「華美に飾った言葉は、あなたには似合いません…。  きっとあなたの言葉は、野の花のように、自然に咲くものなのです…」 //-- // {{ref_image 00-04-2.jpg}} //--  その頬を染めた微笑は、まるで刺のない小さな野ばらのようだった。  ハンス(仮名)は人魚姫の手を握り返し、沸き上がる衝動のままに言葉を口にしていた。 「守ってあげるッ!!」  込み上げてくる気持ちを、ハンス(仮名)は抑えきれずに叫んだ。 「ボクは姫さまの笑った顔が好きなんだ!!  だからずっと、姫さまの笑顔を守るよ!」  そういわれて人魚姫は、満面の笑顔を輝かした。 「いまの言葉、とても素敵です!」 「ほんと?!」  コクリとうなずく、人魚姫。 「守ってあげるッ!! 守ってあげるヨッ!!」  莫迦の一つ覚えを連発する、ハンス(仮名)。 //  その愚直なまでに正直な男を、人魚姫は微笑ましく、うれしく感じていた。  その愚直なまでに正直な男を、人魚姫はひだまりにいるように、うれしく感じていた。 //-- // 「ずっと、守ってあげるヨッ!!」 {{size 5,"「ずっと、守ってあげるヨッ!!」"}} //-- // {{ref_image 00-04-2.jpg}} //-- 「スフィアのことは?」  スフィアがハンス(仮名)の腕を取っていた。 「スフィアにも、いってくれたよね?!」 「ス、スフィア!!」  ニッコリ笑うスフィアに、どぎまぎ焦るハンス(仮名)。 「忘れたの、ハンス(仮名)?!  スフィアにいってくれたじゃない、'''初めてのとき'''!!」  ピシッと、なにかが割れる音がした。 「……ハンス(仮名)、“封印”の時間が来ました」  抑揚のない、人魚姫の声。 「え? ちょ、ちょっと待って!!」 「ねぇねぇ、覚えてるでしょ?  ハンス(仮名)ったら!!」 //  慌てるハンス(仮名)の腕を、スフィアは無邪気に振り回す。  慌てるハンス(仮名)に、無邪気なスフィア。 //-- 「ハンス(仮名)、わたくしにかまわず、スフィアを守ってあげてください」  氷の微笑を残し、人魚姫は目を閉じた。 「ちょっ! 誤解だよぉ〜!」  ハンス(仮名)は川のような涙を流した。 「スフィア〜、誤解されるようなこといわないでよぉ〜。  あれは“初めての時”じゃなくて、“初めて会った時”でしょ?」 「あら、おんなじじゃない。  スフィアはあの時、身も心も、ハンス(仮名)のモノになったのよ!」  スリスリとハンス(仮名)に抱きつき、スフィアは顔を埋める。 {{size 5,"「ハンス(仮名)ッ!!」"}}  仁王立ちの飛び猫が、戸口に立っていた。 「アンタ、姫さまの前で、なにやってんのッ?!」 「こ、これは、つまり、――」  のっし、のっしと近づく、飛び猫の恐怖。  心なしかその影は、一歩ごとに巨大化していくように思えるのである。 「だ、だから、ちょっとした誤解で、ね、ねぇ、怒ってる…?  君のような可愛い子猫ちゃんには、怒った顔は似合わないよ?」  飛び猫の形相は、赤鬼のようであった。 「そんなチープな台詞で騙されるかぁ〜ッ!!」 「ぎぃあぁぁぁぁぁぁ〜ッ!!」 //{{counter2 mer03Count}}