!!!インターミッション(「愛娘ッ! 許嫁ッ?!」) {{category 本編,愛娘ッ! 許嫁ッ?!,インターミッション,nolink}} !■厳めしく祖父は待っていた。 {{ref_image sf_gi.jpg}} 「ハンス(仮名)の娘とな?」  孫の名をいうと、爺さんは苦虫を頬張ったような顔となった。 「はい、曾御祖父様。スフィアと申します」  可憐な少女はスカートを摘まみ、ちょこんと礼儀正しい会釈。 「ふむ。近こう寄れ」 「はい…」  不安な面持ちを隠さず、少女はそそ…と近づく。 「どれどれ…。  成長の度合いを、とくと味合わせてもらうかの…クク…」  いたいけな少女に、日に焼けた初老の手が延びる…。 「…ぁ…そんな…」 「ほ〜れ〜! 高い、高〜い♪」  爺さんは、スフィアを高く抱き上げた。 「きゃははっ! もうっ! 曾御祖父様ったら!  スフィアはそんな年じゃないですよ〜!  きゃははっ!」 「う〜ん。髪の色も目元も、死んだ婆さんの若い頃にそっくりじゃ。  かわえぇのぉ〜、かわえぇのぉ〜♪」 「きゃはっ! 曾御祖父様のおヒゲ、くすぐったいっ♪」 「…………」  無言のハンス(仮名)。 「ほんにかわえぇのぉ〜♪  初孫とは、こんなにかわえぇもんかのぉ〜♪」 「…………」  無言のハンス(仮名)。 「なんじゃ、ハンス(仮名)。  指など銜えても、おまえにはやらんゾ?!  コレはワシの初孫じゃからなっ!  さっさと去ねっ!」 「……初孫はボクなのに…ぐすん。  ボク、あんなコトしてもらった覚え、ないよ…ぐすん…すんすん…」  初孫・ハンス(仮名)はマントの端を噛みしめ、クラッカーのような涙を垂らす。 「まぁ、男親なんて、あんなモノよ」 //  同情したニーヤは、ハンス(仮名)の肩を叩くのであった。  厳めしく非情なギルドの長も、やはり人の子。娘の方がかわいいのである。  デレんとダラしないギルドの長を見て、ニーヤはハンス(仮名)の肩を叩くのであった。 !■ハンス(仮名)はスフィアを連れ、館を案内していた。 {{ref_image sf_gir.jpg}}  遠路遥々やってきたスフィアを、遠い故国へ追い返すワケにもいかない。  ハンス(仮名)とともに、ギルドの館に住むこととなったのである。 「姫さまにお伺いしないとね」  ハンス(仮名)を見上げ、スフィアは小首をかしげた。 「姫さま?」 「うん。ボクの婚約者」 「な〜んだ。二号さんか」 「二号〜???」  飛び猫・ニーヤは、大人げもなし。  険しい目を無邪気なスフィアに向けてしまうのである。 「だって、婚約はあたしの方が先だもん。  正妻はあたし、姫さまは二号さん!  でしょ?」 「ハンス(仮名)、アンタ、この娘にどんな教育してんのよ」 「そうだよ? スフィア?」  父親らしく諭す声に、ニーヤはウンウンと頷く。 「計算間違ってるよ?」 「あ。そうか。お妃はもう231人いるから…  姫さまは232号さんだねっ!」 「そうそう。よくできたね〜♪」 「えへへっ!」  ハンス(仮名)はスフィアの頭を、ニッコリ、撫で撫で。  スフィアは、ぺっとり、ハンス(仮名)に貼りつく。  あまりの親莫迦ぶりにニーヤは目が点である。 「ちがうでしょっ! この莫迦親子っ!!」 !■人魚姫は眠ったままであった。 {{ref_image sf_hime.jpg}} 「これが…姫さま…」  スフィアはまるで胸を掴まれたように、眠る人魚姫に魅入っていた。 「さ。ご挨拶して」  スフィアはハンス(仮名)に即され、スカートを摘んだ。 「お初にお目にかかります、人魚姫さま。  ハンス(仮名)の娘、スフィアでございます。  お会いできて光栄でごさいます。  以後、お見知り置きくださいませ」  うやうやしく、作法通りの丁寧な挨拶。  ハンス(仮名)の娘とは思えぬ、小公女ぶりである。 「姫さまも喜んでらっしゃるわ」  ニコリと飛び猫がいうと、スフィアは不思議そうな顔をした。 「飛び猫は、眠ったままの姫さまとお話しができるんだよ」 「へ〜。スゴイのね…。  猫なのに、言葉もしゃべれるし」 「大したことじゃないわよ」 「中に姫さまが入ってるの?」 「…入ってないわよ」 「まぁ、まぁ、ふたりとも」  ハンス(仮名)が、少女と飛び猫の間に割ってはいる。 「姫さまを起こしちゃわるいから。ね?  早く退室しようか」  なんせスフィアは、ハンス(仮名)のアレコレをイロイロと知り尽くしているのだ。  人魚姫に知られたくないこともあり、ハンス(仮名)はそそくさと退散したい。 「あ。待って。  もうひとつご挨拶があるの」  そういうとスフィアは、再びスカートを摘んだ。 「人魚姫さま。  ハンス(仮名)の“正妻”のスフィアでございます。  ふつつか者ですが、夫の愛を一身に授かっております。  以後は“なんの”ご心配もなく〜」  ピシッとなにかが割れる音がした。  ハンス(仮名)と飛び猫が凍りつき、人魚姫の眉がピクンと動く。  なんとスフィアの挨拶は、正妻が妾に対して「身を引け」といってるようなものだったのである。 「かわいらしい奥方さまね、ハンス(仮名)。  “正妻”がいるとは初耳でした」  目を覚ました人魚姫は、にこやかな微笑を浮かべていた。 「あ、あのね…あの…まだ妻じゃなくて…その…」  どういいわけしたものか、しどろもどろの隣でスフィアが微笑む。 「はい。まだ“許嫁”でございます。  結婚式のときにはぜひ、ご出席を。  232号さま!」  ピシッとなにかが割れる音がした。 「心しておきます」  にこやかな人魚姫。頬がヒクヒクしていたのは、いうまでもない。 「ハンス(仮名)?」 「は、はいっ!」  微笑を向けられ、直立不動となった。 「スフィアとの結婚式の前に、紋章は集まるのですよね?  もちろん?」 「う、うん、うん! も、もちろんっ!!  ね、集まるよね? ニーヤ?」  飛び猫は姫さまの膝で、大アクビ。 「ゆっくりでもよろしくてよ?  232号は他の方をお探しくださいね?」  氷の微笑は、ツララのように突き刺さった。 「スフィア?  わたくしが眠っている間、ハンス(仮名)をよろしく。  移り気な殿方には、誘惑が尽きませんから」 「はい、姫さま。ご心配なく。  悪い虫を退治するのも、正妻の努めでございます!」 「たのもしいわ。  またお話ししましょう、ハンス(仮名)のことを。  あなたとは楽しい時間が過ごせそうです」 「あたしも楽しいです、姫さま♪」  女たちは目と目で会話。  いつのまにやら協定が結ばれ、どうやらお目付役が増えたようである。  ハンス(仮名)は、なにもいえず… 「あぅっ、あぅっ!」  まるで調教される、オットセイのようであった。 !■ふたりと一匹は、りりんの娼館へやってきた。 {{ref_image sf_ririn.jpg}} 「うわあ。きれいな人魚さんがいっぱいっ!  みんな、ハンス(仮名)の新しいお妾さん?」 「ちがうわよ」  無邪気なスフィアに、憮然とした飛び猫。 //  桃色の髪の人魚が、ハンス(仮名)に手を振る。  ハンス(仮名)は手でバッテンを作ったり、口に指を一本立てたり、怪しい合図を繰り返していた。 「なにやってんのよ、アンタは?!」 「な、なんでもないよ〜」  ハンス(仮名)は吹けない口笛でゴマかした。 //-- 「お城がまだあったころを思い出すね!」 「へぇ〜。こんな感じで侍らせてたのね〜」 「あぅっ、あぅっ!」  ハンス(仮名)はまるで、オットセイのようである。 「りりんはいないみたいね」  ロビーを見渡して飛び猫がいうと、スフィアはあどけなく首をかしげた。 「りりんって…?」 「ここの責任者よ」 「色っぽいお姉さんで、苦労をしょいこむタイプ?」 「まぁ、色っぽいのはたしかだけど…」  飛び猫はハンス(仮名)と顔を見合わせた。 「頼られると断りきれず、ダメな男に貢いで、身を持ち崩しちゃうの。  もう! ハンス(仮名)ってば、そういうタイプに弱いんだから…。  ほら。場末の安酒場の女将が、フッとやつれた溜め息なんかするでしょ?  すると、 “ああ、ボクが支えてあげなくちゃ…”  なんて感じで、いつもコロッと。  97号さんとかね、26号さんとかね、38号さんとかね…。  それでなぜか、み〜んな、地獄耳なのっ!」  突然、二人と一匹は、背筋をゾクンと震わせた。  後ろを伺うと、いつのまにかにウワサのりりんがいた。 「ウチは場末なんかじゃありませんっ!  貢いでもいませんっ!!」  地獄耳なのは正解らしい。 「ハンス(仮名)!」 「な、なにかな? りりん?」  怯えるハンス(仮名)に、りりんが一枚の紙を突きつける。 「コレ、今月の請求書。  かなり溜まっているから、払うまでは出入り禁止よ!」 「え〜〜〜〜!  おちんぽ腐っちゃうよぉ〜」  ハンス(仮名)は、悪魔に魂の請求をされたような顔になった。 「知りませんっ!  わたしは貢ぐオンナじゃありませんからっ!」 「そんな冷たいこといわないで…。  お願いだよ、りりん…。  貞操帯の鍵、持ってるの、りりんだけなんだよ?」 「知りません」 「りりんだけが頼りなのに…。  りりんに洗ってもらえなかったら、ボク、カイカイ病で死んじゃうよぅ…」 「……。  もう…しょうがないわね…。  じゃ、一週間だけ待ってあげる」 「ホント?!」 「一週間だけよ?  その間に少しでも払って」 「うん! やっぱり、りりんはやさしいねっ!  ボク、そういうトコ、大好きだよっ!」 「もう…調子だけはいいんだから…」  どうやら、スフィアの見立てどおり。  あとは身を持ち崩すのを待つばかりである。 「それで? この娘は?」  りりんが、娼館に似つかわしくないスフィアを聞くと、飛び猫が紹介をした。 「ハンス(仮名)の娘で婚約者だって」 「うふふ。かわいらしい婚約者ね」  所詮は子供の約束。  そんな余裕の微笑である。 「よろしくお願いしますね。  叔母様!」  ピシッとなにかが割れる音がした。 「よろしくね。スフィア」  りりんは何事もなかったように、にこやかな微笑を浮かべた。  さすがにオトナのオンナは、こんなことには動じないのである。 「わるいけど、わたしは急用があるから。  また今度ゆっくりね」  そういうとりりんは、ふたりと一匹にかるく手を振った。  と。立ち止まり。 「ああ、ハンス(仮名)?  やっぱり、ツケ払い終わるまで出入り禁止ね」 「ちょ、ちょっとりりん〜」  こうしてスフィアは、メイドとしてギルドの館で働くことになり、ハンス(仮名)とともに館に住むこととなった。  ちなみにスフィアは、“館の小さなメイドさん”と巷で評判となり、ギルドの強面たちの心和ませる存在となるのである。  しかしそれはまた、別の機会にて。 //{{counter2 mer02Count}}