!!!ギルドの館 {{category 本編,プロローグ,nolink}} !■その晩、ハンス(仮名)はギルドの館に忍びこんでいた。 {{ref_image no_castleD01_c.jpg,pic}} 「こんなに簡単に入れるなんて。  ボクってついてるなぁ〜」  こういった館に、決まってあるのが抜け穴である。  本来なら中からコッソリ逃げ出すのに使われるのだが。  それを逆に辿って忍び込んだ、というワケである。  問題は抜け穴がドコにあるのか、であるが、これもさして苦労はなかった。  惚けていても元・王子。城暮らしは伊達ではない。  勝手知ったるなんとやらで、アタリをつけたらさぁビンゴ、というワケなのである。  しかし…なんだか、話しがウマすぎやしないだろうか? 「で。お姫さんはどっちかな…」  古今東西、捕らわれのお姫さまといえば、住み心地のわるい北の塔と決まっている。  しかしあの待遇からすると、そうは思えない。  むしろ逆の南の塔…。ふたつあるうちのどちらか…。  スンスンと、ハンス(仮名)は鼻を鳴らした。 「こっちだね…」  かすかに残るは、白粉の香り…。  少々、安っぽいところからすると、おそらくはメイドが残した物だろう。  残り香となるほどメイドが行き交う…とすれば、その先にいるはギルドの首領か人魚姫だ。  ハンス(仮名)のクセに、なかなか鋭いトコに目をつける。 「女の子のいい匂いがする。  きっと風呂上がりのメイドさんが見られるよ!」  前言撤回。単におちんぽが反応しただけのようである…。 !■しかし、それも天性の運というものか。 {{ref_image cloister03_c.jpg,pic}}  出会うべきものに、ハンス(仮名)は出会った。 「猫…?」  廊下に猫がいた。  モップの穂先のような、モコモコの白い猫である。 (背中に翼がある…)  いくら剣と魔法の時代といっても、“翼のある猫”など不可思議な生き物。 「キミ、姫さまのお膝にのってた子だね」  ハンス(仮名)はゆっくりしゃがむと、野良猫を呼び寄せるように手招きした。  猫は興味を惹かれたのか、たったった〜と走ってきて…。 {{size 5,"「なにやっとるか! この役立たずっ!!」"}} //  ハンス(仮名)の顔面に30ミリキックを浴びせた。  顔面に30ミリキックを浴びせた。 「しゃ、しゃべった?!」  蹴られた鼻を抑えて、ハンス(仮名)はびっくり仰天。  翼があるばかりか、話しをする猫など、いくら剣と魔法の…以下略。 「姫さまがさらわれそうなのよ?!  さっさと助けに行きなさいよっ!!」  どうやら翼のある猫は、ハンス(仮名)を見回りの衛兵と間違えているらしい。 「そりゃ、タイヘンだっ!」  ハンス(仮名)は猛然とダッシュ…の姿勢で、くるりとその場で180度。 「えーと…姫さまのお部屋ってドコ?」 「この先に決まってんでしょっ!  薄らグズっ!!」  翼のある猫は、再び30ミリキックを浴びせた。 「あたしは応援呼んでくるから!  それまでアンタだけでなんとかしなさいっ!」  いうか早いか、翼のある猫は、文字どおり暗い廊下を飛び去っていった。 「もう…せっかちだなぁ〜」  ハンス(仮名)は蹴られた鼻をスリスリ。  しかしお陰で目的とする場所がわかった。 「急いで姫さまのトコにいかなくちゃ」  ハンス(仮名)は足音を忍ばせ、廊下の先へと急いだ。 !■廊下に人影がひとつ…いや、ふたつ。  ひとつは気絶しているのか、力の抜けた影。  もうひとつは、それを運ぼうと手間取っている影。 「あん、もうっ!  姫さま、ダイエットしてよっ!」 {{ref_image 00-02-1.jpg}}  どうやら抱き抱えに失敗して立ち往生してるらしい。  おそらく、もうひとつの人影は人魚姫だろう。  ハンス(仮名)は人影に近づいて声をかけた。 「足、持ったげるよ」 「あ、ありがと」  声からすると女のようだ。  足があるから、人間の女。  女は人魚姫の脇から手を回し、ハンス(仮名)は足ヒレを持ち、二人で意識のない人魚姫を運びはじめた。 「姫さま、寝てるのかな…?」  人魚姫は競売会場で見たときと同様、目を瞑ったまま、ピクリともしない。 「“封印の眠り”よ。  これに入ったら、しばらく起きることはないわ」 「ふーん…」  月明かりに、人魚姫のふっくらした頬が浮かび上がると、ハンス(仮名)は吸い寄せられるような気分になった。 「キスしたら、起きたりしない?」 「しないわよ。  アンタが王子さまなら、別かもしれないけどネ」 「ふーん…。  “元”王子じゃ、ダメ…?」 「“元”ねぇ…。  モトって肩書は、“役立たず”よね〜」 「そうなの?」 「そうよ。  役に立つならリストラされず、“元”なんてつかないでしょ?」  “元”王子のハンス(仮名)には、いい得て妙である。 「ふーん…。あのね…」 「?」 「忍び込むなら、お化粧はしない方がいいよ?  白粉の匂いで、居場所がわかっちゃうから」 「たしかにそうね…」  女は頷くともなしに呟くと、溜め息をひとつついた。 「姉さんから貰ったのは安っぽすぎたわ。  いくらメイドに化けるからって、ここの娘たちのと比べると天花粉…。  …て、アンタ、ダレよ?」  ここにきて女はようやく、ハンス(仮名)を不信に思ったらしい。 「ボク? ボクは“元”王子の――」 {{size 5,"「いつまで、ツマらんコントをやっとるかっ!!」"}}  先程の翼のある猫が、ハンス(仮名)の頭にどげんっ!と激しいツッコミを入れた。 「ニーヤっ!」  突如乱入した猫に、女は驚きの声をあげた。 「ピアス、またアンタだったのね?!  よくもまぁ、性懲りもなく…」  翼のある猫が女を睨む中、廊下に物々しい足音が響く。 「チッ!」  女は舌打ちして腰に手をあてた。  しかしそこには、あるハズの短剣がなかった。  いつのまに外されたのか、それは鞘ごと、ハンス(仮名)の腰にあった。  人魚姫を人質に逃亡しようと思ったのだが、唯一の武器を取られては脅しようもない。 「覚えてなさいよっ!」  突っ伏したハンス(仮名)に定番の台詞をいうと、女は身を翻して逃げ去った。 「いたいなぁ、もう…」  起きあがったハンス(仮名)は、ツッコまれた後頭部をスリスリ。  その後ろで、不穏な男の声が響く。 「侵入者はコイツか!!」 {{size 5," ガツンっ!"}}  ハンス(仮名)の目に星が散って、真っ暗闇となった…。