!!!自由と人魚の街 {{category 本編,プロローグ,nolink}} !■男が一人、ふらふらと旅路を歩いていた。 //{{ref_image ad_pass02_a.jpg,pic}} {{ref_image 00-01-1.jpg}} 「……お腹へったなぁ。  この間、ご飯を食べたのは、いつだったっけ……」  この男はハンス(仮名)、本編の主人公である。  男というには、幾分か年端が足らない少年なのだが…。  実は300人からの子供がいる、リッパなオトコの子なのである。  元はさる王国の跡取り王子だったのだが、驕る平家も久しからず。  今はあてない、流浪の身。  当面の目的地である街が見えてくると、財布を見るまでもなく、哀しくハンス(仮名)は呟く。 「ああ…、こんなお金じゃ、女の子とえっちもできないね……」  これである。  メシより、まずオンナ。  この性分が元で、王国の財政は傾き、結果、あてのない流浪人となったというのに……懲りないオトコの子である。 !■街はとても賑わっていた。 {{ref_image city01_a.jpg,pic}}  年に何回かの、大規模な競売が行われているらしい。  この街の特産物は「人魚」。  その美麗な容姿は目を楽しませ、澄んだ歌声は耳を和ませる。  そして教養と見聞は知的な興味を満たし、妖しげな魔法は人を助けることも、陥れることもあるという…。  ある者は寵姫、多くはメイド、またはお抱えの魔術師、果ては子供の教育係。  まさに「生ける宝石」と富裕層に珍重され、コレクションする者も多い。  人魚はさまざまな目的で取引され、中産階級から富裕層までの投資対象とされていた。  街はその「人魚の売買」で莫大な収益をあげ、ギルドの管理運営の下、とても栄えていたのである。  もちろん、ハンス(仮名)の興味もその人魚にあった。  とはいえ、高額で取引される人魚を買えるハズもない。  半分以上は、物見遊山といったところか。 「あの娘、かわいいなぁ…。  こっちの娘はボインボイン…ウフっ!」  ハンス(仮名)の故国は、ココより遥か北の地。  海などない、山に囲まれた小さな国だった。  そこでは人魚は、風に聞く見聞でしかない。  ウワサに聞く「生ける宝石」に目移りしながら、すきっ腹はどこかに置き忘れ。  おちんぽの向くまま、フラリフラリ…。  着いた先は、都市の中心・ギルドの館であった。 !■そこは館とは名ばかりの、ちょっとした砦。 {{ref_image no_castleD01_a.jpg,pic}}  城壁に囲まれた街といい、活気に消されてはいるものの、なんとも物々しい…。  しかし、それにはそれなりのワケがあった。  莫大な富を産み出すとなれば、周辺諸国が黙ってはいない。  自治を守るためには、それなりの軍事力が必要、というワケだ。  しかしいくら栄えているとはいえ、小国に毛が生えたような軍事力。  何人、豪傑・強者が揃っていても、一国の手にかかれば造作もない。  もちろん、周辺諸国もそこはわかっている。  とはいえ、この街の価値は経済力である。  力に任せた占領では、街は荒廃し、交易者の足も遠のく。唯一の貴重な価値もなくなってしまう…。  そこを知っての、城壁と強固な館。 「黙って占領はされないぞ」  という硬い決意と主張を表したものであった。 !■館では競売が行われていた。 {{ref_image co_city01a_a.jpg,pic}}  門前広場に舞台が設けられ、何千という人が詰めかけていた。  大半はハンス(仮名)と同じ、物見遊山であろう。  そういった客相手に、広場の縁には出店が立ち並び、空腹を呼び覚ます匂いを漂わせていた。  もちろんハンス(仮名)の鼻も、その肉汁の焦げる匂いに吸いよせられた。  しかしすぐに目とおちんぽが、「右向け、右」の号令をかけた。  そこは門の上のテラス。  ひとりの人魚が、白い猫を膝に椅子へ腰掛けていた。 {{ref_image 00-01-2.jpg}}  両脇に衛兵が立ち、まるで石膏の女神像のように、ただ静かに目を閉じている。  競売にかけられる人魚たちとは、明らかに待遇がちがう。  遠目にもわかる、高価なドレスや装飾品で身を飾られ、頭のティアラは、さながら高貴なお姫さまといったところだ。  ハンス(仮名)はテラスから目を離さず、脇にいた男のシャツを、ツンツン、ツンツン…と引っ張っていた。  男はビールをしこたま飲んでいたのだろう。  シャックリをしながら、訝しげにハンス(仮名)へ振り向いた。 「な、なんだよ…ヒック」 「ねぇねぇ、あのお姫さんも、競売にかかってるの?」  まるで魂を抜かれたみたいなハンス(仮名)。  男は目を丸くしたものの、すぐに合点がいったように笑いだした。 「ありゃ、なんでも、人魚の国のお姫さまらしいぜ。  捕らえてはみたものの、あまりの高値に買い手がつかないんだとさ」 「へー。そんなに高いの?」 「そりゃ高いだろうなぁ〜。  人魚と一晩すごせば、不思議な力が使えるようになる。  処女の人魚姫とシた日にゃ、“その力つきることなく、その命果てることなし”って、もっぱらのウワサだ。  おまけにあの器量…イヒヒっ!  地獄の亡者だって生き返って、天国にいっちまえらぁな!」  ぽかんと、ハンス(仮名)は人魚姫を見た。  男の下品な嗤いも気にならない。 「それじゃ、とてつもなく高いんだろうね…」  ハンス(仮名)はこの世の終わりとでもいうように、深くため息をついた。 「アタの棒よぉっ!  ちょいと昔の話しだがな。  二つの国が一人の人魚を奪い合い、戦争が起きたんだ。  その戦争は近隣の国まで巻き込んで、三つ巴、四つ巴の大戦にまで発展した。  そんな話まであるくらいだからな」  ……ちなみにその戦争の原因は、ハンス(仮名)の祖父である。 (ああ…、爺ちゃんが生きていたころはよかったな……。  底意地わるい爺ちゃんだったけど、メイドのクレアもいたし、メイドのアイーシャもいたし、メイドの…ああ…)  などと過去の悦楽にひたるハンス(仮名)を、気にとめる風もなく、男はビールをあおった。 「プハァー!  国が一個買えるなんてもんじゃ、すまないだろうさ」  もし仮に人魚姫が売れたとしたら、売ったものは巨万の富を得る。  そうなったら近隣はもとより、この国の王も黙ってはいない。  そうなる前に没収するなり、莫大な税をかけるのが賢明な{{ruby "政","まつりごと"}}というものだろう。 「よく諸国の王が介入してこないね」  さすがに元・王国の王子。  小狡いことには頭がよく回る。 「坊主、この街は初めてのようだな」  男は話し相手ができて、よほどうれしかったのだろう。  屋台から棒つきソーセージを二本買うと、一本をハンス(仮名)に差し出してくれた。 「自由と人魚の街へようこそっ!」 「あ、ありがとう」 「この街はどこの国にも属さず、ギルドが取り仕切る自由交易の街だ。  いわば、ギルドの主権国家。  どこの誰も、手出しはできんよ」 「ふーん…」  ハンス(仮名)は生返事をしながら、ソーセージにかぶりつき。 (あんまりいい肉じゃないね…でもおいしい…)  などと思った。  男はそれを半信半疑と勘違いしたらしい。 「さっきもいったろ? 大戦が起きたって。  そうならないようにする、そのためのギルドだからな」  察するところ、ギルドを創設したのは、諸国のお偉いさんか。  偏った富は戦争を生む。 “人魚から生み出される、莫大な利益を平等に分ける。  その代わり、決まりは守れ。  じゃないと、他の国々が黙ってはいないぞ”  そんな処だろう…。 「とはいっても、あの人魚姫は、金じゃ買えんだろうな」 「というと?」  どこからわくのか、ハンス(仮名)は希望に瞳をキラキラさせた。 「それだけ貴重だってことだよ。  あいつのお陰で人魚たちにも“睨み”を効かせられるんだ」  人魚たちにかかったら、海路を封鎖するのはわけがない。  この街は交易で栄えている街だ。  陸路があるにしろ、海路を塞がれては手痛い。 「莫大な金、それとなにか。  ギルドの取引材料にされるのさ。あの人魚は」  捕らわれの人魚姫。 (どんな取引材料がいいのかな…)  今日のメシにも困る男に、どんな取引材料があるのやら。 「坊主、ホレたな?」 「ギク」 「ガッハッハー! やめときなって!!  俺たちがいくら働いたって、届くような花じゃねぇんだ」  ハンス(仮名)は背中をバンバン叩かれ、あやうくソーセージを落としそうになってしまった。 「ハハ。だよねぇ〜。  やっぱりボクは、足とぬぷぬぷがついてる女の子がいいや」 「ついてるさ」 「? どこに?」  足がついてちゃ、人魚とはいえないだろうに。 「坊主、なにも知らねぇんだな。  人魚は満月の晩に、フツウの女になるんだぜ」 「足とぬぷぬぷがついた?」 「それもとびっきりのな!」  イヒヒっと、男はまた下品に笑った。 「満月の晩だけじゃないぞ。  月光石をつかえば、いつでもさ」  なるほど。そこココで見かける宝石商は、宝飾品を売りにきてるだけではないらしい。  人魚に次ぐ収益は、消耗品の月光石というわけか。  ギルドの連中は、うまいことを考えたものだ。 「へぇ〜」  感心ついでに、ハンス(仮名)のハラが返事をした。  棒つきソーセージのお陰で、本格的に空腹を呼び覚まされたらしい。 「話は変わるんだけど。  なにかお金になるような仕事、ないかな?」 「なにができるんだ、坊主?」 「読み書き、ソロバン、なんでもできるよ」 「ソロバン?」 「ソロのバンドじゃないよ?  東方式計算尺…はココにはないか…」 「ふむ。なんでもかぁ…ドレ」  値踏みするように見ると、男はハンス(仮名)の股間を掴んだ。 「キャッ!」  ハンス(仮名)は女の子みたいな悲鳴をあげると、男の手を逃れて股間を隠した。 「お、おじさん、もーほーさんだったの?」 「ガハハ。莫迦いうな。  “狩人”ができるか、調べてやったのさ」 「“狩人”?」 「人魚を捕まえてギルドに売る。  ここで一番儲かるのは、“人魚狩り”の狩人さ。  坊主みてぇなヒョロっ子じゃ、港の荷運びは無理だし、会計屋は年が足らねぇ。  おっ勃つトシなら、狩人もわるかぁない」 「“人魚狩りの狩人”か…」  それとおちんぽがどう結びつくのか、イマイチ理解できないけど。 「そうそう捕まえられねぇだろうが。  あのとおり、運が良ければいい金になるぜ」  アゴで競売を指して男がいった。 「おっといけねぇ!  あの人魚は目をつけてたんだ」  慌てて走る男にハンス(仮名)は礼をいった。 「おじさん、ソーセージごちそうさま〜」 “どんなときでも、お礼と恩は忘れないこと”  それが祖母の、唯一の思い出だった。