!!!プロローグ・放課後 「{{ruby 鈴代,すずしろ}}くんは参加するの?」  放課後、掃除が終わって、帰りの準備をしていると、佐藤さんが話しかけてきた。  黒髪の長い女の子・{{ruby 佐藤 美代,さとう みよ}}ちゃん。 「鈴代が参加するワケないじゃんっ! なあっ?!」  ボクが返事をする前に、ブルドッグみたいな男の子・ブータが大きな声でそういってきた。 「う、うん…たぶんね…」  ボクはそういうと、そそくさ、逃げるように教室を出た。  なんでいつもこうなんだろ…。  ボクは、{{ruby 鈴代 はじめ,すずしろ はじめ}}。  初等部・四年三組。  はっきりいって、友達はいない。  いつもクラスになじめなくて、いつもひとり。  イジメにあってるのかもしれないけど、ずっとこうだからわからないし、気にしない。  ん…気にしないは、ウソかな。  ホントはフザけあえる友達が欲しい。  でも、どうしていいかわからない。  ちょっと話しをするくらいの子ができても、みんなすぐに離れていってしまう。  たぶん、ボクがツマんないからなんだと思う。  だから、自分の性格かなんかを、変えるべきなんだろうと思う。  でも、どうしていいかわからない。  なにがわるいのかわからないもの。  わからないから、休み時間も、放課後も、ずっとひとり。  それでいいんだ。気にしなければ…。 //  うん。そうだね。  キミがいるから、気にしない。  ボクの中の、もうひとりのキミ。  ツライときに話しかけて、いつも黙って聞いてくれる、もうひとりのボク。  ボクの中の、ボクの友達。 //--  階段を降りながら、さっきの教室でのことを考えていた。  なんでいつもこうなんだろ…。  せっかく、佐藤さんが話しかけてきたのに…。  いつもアガっちゃって、逃げちゃう。  うん。知ってる。ボクは佐藤さんが好き。  さらっとした長い黒髪、広いおでこの女の子・佐藤美代ちゃん。  本人は気にしてるみたいで、キチンと切り揃えた前髪でおでこを隠してる。  ボクはチャームポイントだと思うけど。  成績もよくて、クラスの学級委員。  明るくて、誰からも好かれてる、クラスのアイドル。  うん。知ってる。ボクには不釣り合い…。 「鈴代くん、帰るの?」  ハッと顔をあげると、ゆり先生がいた。  ウェーブがかった金髪の美人で、やさしいボクのクラスの担任・{{ruby 緑川 ゆり,みどりかわ ゆり}}先生。  今日は紺色のスーツに開襟の白いブラウス。  メガネをかけてるから、まるで有能な秘書さんみたい。  清楚でおっとりした先生には、とても似合ってた。 「階段を降りるときは、前も見ないとあぶないわよ?」  そう注意しながら、先生はいつも絶やさない微笑を見せてくれた。 「う、うん。  先生、さようなら〜」 「あ、待って」  すれ違うボクを、先生が引き止める。  なんだろ? 「体験教室のプリント。  おとうさん、おかあさんに見せてくれた?」 「う、うん。見せたよ…」 「なんていってたかな?」 「うん…。もう少し、考えてみるって…」 「そう…」  ゆり先生は困ったように、頬に手をあてた。  ボクはうそをついたことが、ちょっと後ろめたい。 // ボクはちょっと後ろめたい。 「はじめにはまだ、早すぎないか?」  お味噌汁をすすり、おとうさんがいった。 “正しくセックスを学び、積極性を養う、体験教室”  そうプリントには書いてあった。 「そうかもしれないけど…。  ホラ、積極性を養うって、書いてあるでしょ?」  おかあさんが、プリントの文字を指さす。 「ひとりっこのせいかしらね…。  はじめは消極的すぎて…心配なのよ」 「まぁ、たしかにな…」  おかあさんのため息に、おとうさんは顎をツマんだ。 「それに、あなたと出会ったのだって…うふふ」 「ん、うん…まぁ…その…母さん、かわいかったな。アハハっ!」 「ヤダ、もうっ!」  なんてボクを置き去りに二人で盛り上がって、すぐに参加許可の署名と判子をもらえた。  残りはボク自身の署名だけ。 「書くか、書かないか。  はじめが自分で決めなさい」  おとうさんはそういってくれて、ボクの署名は空欄のままだった。 「ねぇ、鈴代くんは、どう思う?」  ゆり先生はしゃがんで目線を合わせると、そう聞いてきた。 「ボ、ボクは…」  ボクは目を泳がせながら、言葉に詰まった。  だって今日の先生は、開襟のブラウス。  ボクの位置からだと、白い胸の谷間が見えちゃってる。  柔らかそうな胸に、ピンク色の下着のレースまで見えた気がして、ボクはつい、そっぽを向いてしまった。 「まだ…わかんない…です…」 「そう」  先生は肯定も否定もせず、ただ微笑んだ。 「先生もね、鈴代くんと同じ。  むかしは引っ込み思案でね。  人と話すのが、すごく苦手だったの」 「そうなんだ」  ちょっと意外。  先生は誰とでも愛想よく話すし、第一、こんな美人だもの。なににも、臆することなんてないと思ってた。 「でもね、えっちするようになって、変わったの。  誰とでも気軽に話せるようになったし、アガることもなくなったの」 「ホント?」 「うん。友達もできるようになったわ。  鈴代くんも、きっとそうなれると思うの」  メガネの先生はニッコリ、笑顔を作った。 「先生ね、鈴代くんは、もっと積極的になるべきだと思うの。  よく考えてみてね?」  ボクは渡り廊下を歩きながら、先生の言葉を反芻していた。 // “鈴代くんも、きっとそうなれると思うの” “友達もできるようになったわ”  先生の言葉で、少し参加してもいい気がしていた。  でも、まだフンギリがつかないでいた。  ボクだって、たまにオナニーぐらいするもの。  セックスが、ひとりじゃできないことぐらい知っている。  体験教室に参加しても、誰も相手にしてくれなかったら、それこそミジメだよ。 “鈴代くんは、もっと積極的になるべきだと思うの”  でも、先生はああいってたし…。  うん。そうだね。  ゆり先生は、憧れの先生って感じ。  いつもやさしく、ニコニコしてる。  怒ることもなくて、たしなめるって感じで注意してくれる。  やさしくて、綺麗で、オトナな女の人。  だからボクは、今回のプリントも、親に見せることにしたんだ。  いままでは丸めて、ゴミ箱にポイッ。  それでなにもいわれることはなかったし。ゆり先生みたいに勧めてくれる先生もいなかったし…。  うん。そうだね。  たぶんボクは、“いい子”なんだと思う。  おとなしくて、問題もおこさない、手間のかからない、“いい子”。  先生たちには都合がいいから、かまってくれることもなかったんだと思う。  毎日はなしかけてくれて、かまってくれたのは、ゆり先生がはじめてだった…。  だからゆり先生は、とても信頼してる。 //“鈴代くんは、もっと積極的になるべきだと思うの” // 先生のいうとおりだと思うけど…うーん…。 “えっちするようになって、変わったの” //“友達もできるようになったわ。 // 鈴代くんも、きっとそうなれると思うの” // 先生はそういってたけど…うーん…。 // 急に先生の唇と胸の谷間を思い出し、ボクは自分の頬を叩いた。 // 急に先生の唇と胸の谷間を思い出し、ボクはひとり赤くなった。  急に先生の唇と胸の谷間を思い出し、ボクはちょっと、歩きにくくなっちゃった…。  放課後は図書室へ行くのが、ボクの日課。  そうだね。いまのとこ、友達は本だけ。  でも、ここにはもうひとり、友達みたいな人がいる。 「はじめくん、いつもの本、とっておいたよ」  図書室に入ってカウンターにいくと、メガネのお姉さんが“週刊・きょうりゅうのかがく”を出してくれた。  中等部の{{ruby 田中 春子,たなか はるこ}}お姉さん。  セーラー服に、肩ぐらいのセミロング。  赤いフチのメガネ。  家がお隣なんで、ボクとは顔見知り、っていうか仲良し。  学校の図書室は、中等部・初等部、共同の図書室だから、ここにくれば、図書委員のお姉さんに会えるんだ。 「あ。いつもありがとう」  “週刊・きょうりゅうのかがく”は毎週の楽しみ。  春子お姉さんはそれを知ってるから、親切に取り置いてくれるんだ。 「どういたしまして。うふふ」  お姉さんの声はハスキーで、物静かな話し方。  笑い方も、クスクス、おしとやか。  うん。きっとボクは、おしとやかなタイプが好みなんだろうと思う。 「はじめくんは、体験教室に参加するの?」  ボクが返却の本をカウンターに置くと、お姉さんがそう聞いてきた。 「んと。まだ決めてない」 「そうなんだ」  お姉さんはそう呟きながら、貸し出しカードにスタンプを押した。 「あたし、中等部から、お手伝いで参加するの。  会えるといいね?」  カードを差し出し、お姉さんがニッコリ微笑む。 「う、うん…」  ボクは曖昧な返事をして、カードを受け取った。  自分の顔が、火照ってるのがわかる。  そっか…。  中等部からのお手伝いって、お姉さんなのか…。  なら、参加してもいいかな…。  仲間外れにされても、お姉さんといればいいし…。  ボクは“きょうりゅうのかがく”を鞄にいれて、署名を待つプリントを取り出した。  ゆり先生、まだ職員室にいるかな…? *[[一日目 〜はじめてのはじまり|萌え小説 01]]へつづく… {{include プロローグ・コメ}} {{category 本編,本文,nolink}}