プロローグ・放課後
「
放課後、掃除が終わって、帰りの準備をしていると、佐藤さんが話しかけてきた。
黒髪の長い女の子・
「鈴代が参加するワケないじゃんっ! なあっ?!」
ボクが返事をする前に、ブルドッグみたいな男の子・ブータが大きな声でそういってきた。
「う、うん…たぶんね…」
ボクはそういうと、そそくさ、逃げるように教室を出た。
なんでいつもこうなんだろ…。
ボクは、
初等部・四年三組。
はっきりいって、友達はいない。
いつもクラスになじめなくて、いつもひとり。
イジメにあってるのかもしれないけど、ずっとこうだからわからないし、気にしない。
ん…気にしないは、ウソかな。
ホントはフザけあえる友達が欲しい。
でも、どうしていいかわからない。
ちょっと話しをするくらいの子ができても、みんなすぐに離れていってしまう。
たぶん、ボクがツマんないからなんだと思う。
だから、自分の性格かなんかを、変えるべきなんだろうと思う。
でも、どうしていいかわからない。
なにがわるいのかわからないもの。
わからないから、休み時間も、放課後も、ずっとひとり。
それでいいんだ。気にしなければ…。
うん。そうだね。
キミがいるから、気にしない。
ボクの中の、もうひとりのキミ。
ツライときに話しかけて、いつも黙って聞いてくれる、もうひとりのボク。
ボクの中の、ボクの友達。
階段を降りながら、さっきの教室でのことを考えていた。
なんでいつもこうなんだろ…。
せっかく、佐藤さんが話しかけてきたのに…。
いつもアガっちゃって、逃げちゃう。
うん。知ってる。ボクは佐藤さんが好き。
さらっとした長い黒髪、広いおでこの女の子・佐藤美代ちゃん。
本人は気にしてるみたいで、キチンと切り揃えた前髪でおでこを隠してる。
ボクはチャームポイントだと思うけど。
成績もよくて、クラスの学級委員。
明るくて、誰からも好かれてる、クラスのアイドル。
うん。知ってる。ボクには不釣り合い…。
「鈴代くん、帰るの?」
ハッと顔をあげると、ゆり先生がいた。
ウェーブがかった金髪の美人で、やさしいボクのクラスの担任・
今日は紺色のスーツに開襟の白いブラウス。
メガネをかけてるから、まるで有能な秘書さんみたい。
清楚でおっとりした先生には、とても似合ってた。
「階段を降りるときは、前も見ないとあぶないわよ?」
そう注意しながら、先生はいつも絶やさない微笑を見せてくれた。
「う、うん。
先生、さようなら〜」
「あ、待って」
すれ違うボクを、先生が引き止める。
なんだろ?
「体験教室のプリント。
おとうさん、おかあさんに見せてくれた?」
「う、うん。見せたよ…」
「なんていってたかな?」
「うん…。もう少し、考えてみるって…」
「そう…」
ゆり先生は困ったように、頬に手をあてた。
ボクはうそをついたことが、ちょっと後ろめたい。
「はじめにはまだ、早すぎないか?」
お味噌汁をすすり、おとうさんがいった。
“正しくセックスを学び、積極性を養う、体験教室”
そうプリントには書いてあった。
「そうかもしれないけど…。
ホラ、積極性を養うって、書いてあるでしょ?」
おかあさんが、プリントの文字を指さす。
「ひとりっこのせいかしらね…。
はじめは消極的すぎて…心配なのよ」
「まぁ、たしかにな…」
おかあさんのため息に、おとうさんは顎をツマんだ。
「それに、あなたと出会ったのだって…うふふ」
「ん、うん…まぁ…その…母さん、かわいかったな。アハハっ!」
「ヤダ、もうっ!」
なんてボクを置き去りに二人で盛り上がって、すぐに参加許可の署名と判子をもらえた。
残りはボク自身の署名だけ。
「書くか、書かないか。
はじめが自分で決めなさい」
おとうさんはそういってくれて、ボクの署名は空欄のままだった。
「ねぇ、鈴代くんは、どう思う?」
ゆり先生はしゃがんで目線を合わせると、そう聞いてきた。
「ボ、ボクは…」
ボクは目を泳がせながら、言葉に詰まった。
だって今日の先生は、開襟のブラウス。
ボクの位置からだと、白い胸の谷間が見えちゃってる。
柔らかそうな胸に、ピンク色の下着のレースまで見えた気がして、ボクはつい、そっぽを向いてしまった。
「まだ…わかんない…です…」
「そう」
先生は肯定も否定もせず、ただ微笑んだ。
「先生もね、鈴代くんと同じ。
むかしは引っ込み思案でね。
人と話すのが、すごく苦手だったの」
「そうなんだ」
ちょっと意外。
先生は誰とでも愛想よく話すし、第一、こんな美人だもの。なににも、臆することなんてないと思ってた。
「でもね、えっちするようになって、変わったの。
誰とでも気軽に話せるようになったし、アガることもなくなったの」
「ホント?」
「うん。友達もできるようになったわ。
鈴代くんも、きっとそうなれると思うの」
メガネの先生はニッコリ、笑顔を作った。
「先生ね、鈴代くんは、もっと積極的になるべきだと思うの。
よく考えてみてね?」
ボクは渡り廊下を歩きながら、先生の言葉を反芻していた。
“友達もできるようになったわ”
先生の言葉で、少し参加してもいい気がしていた。
でも、まだフンギリがつかないでいた。
ボクだって、たまにオナニーぐらいするもの。
セックスが、ひとりじゃできないことぐらい知っている。
体験教室に参加しても、誰も相手にしてくれなかったら、それこそミジメだよ。
“鈴代くんは、もっと積極的になるべきだと思うの”
でも、先生はああいってたし…。
うん。そうだね。
ゆり先生は、憧れの先生って感じ。
いつもやさしく、ニコニコしてる。
怒ることもなくて、たしなめるって感じで注意してくれる。
やさしくて、綺麗で、オトナな女の人。
だからボクは、今回のプリントも、親に見せることにしたんだ。
いままでは丸めて、ゴミ箱にポイッ。
それでなにもいわれることはなかったし。ゆり先生みたいに勧めてくれる先生もいなかったし…。
うん。そうだね。
たぶんボクは、“いい子”なんだと思う。
おとなしくて、問題もおこさない、手間のかからない、“いい子”。
先生たちには都合がいいから、かまってくれることもなかったんだと思う。
毎日はなしかけてくれて、かまってくれたのは、ゆり先生がはじめてだった…。
だからゆり先生は、とても信頼してる。
“えっちするようになって、変わったの”
急に先生の唇と胸の谷間を思い出し、ボクはちょっと、歩きにくくなっちゃった…。
放課後は図書室へ行くのが、ボクの日課。
そうだね。いまのとこ、友達は本だけ。
でも、ここにはもうひとり、友達みたいな人がいる。
「はじめくん、いつもの本、とっておいたよ」
図書室に入ってカウンターにいくと、メガネのお姉さんが“週刊・きょうりゅうのかがく”を出してくれた。
中等部の
セーラー服に、肩ぐらいのセミロング。
赤いフチのメガネ。
家がお隣なんで、ボクとは顔見知り、っていうか仲良し。
学校の図書室は、中等部・初等部、共同の図書室だから、ここにくれば、図書委員のお姉さんに会えるんだ。
「あ。いつもありがとう」
“週刊・きょうりゅうのかがく”は毎週の楽しみ。
春子お姉さんはそれを知ってるから、親切に取り置いてくれるんだ。
「どういたしまして。うふふ」
お姉さんの声はハスキーで、物静かな話し方。
笑い方も、クスクス、おしとやか。
うん。きっとボクは、おしとやかなタイプが好みなんだろうと思う。
「はじめくんは、体験教室に参加するの?」
ボクが返却の本をカウンターに置くと、お姉さんがそう聞いてきた。
「んと。まだ決めてない」
「そうなんだ」
お姉さんはそう呟きながら、貸し出しカードにスタンプを押した。
「あたし、中等部から、お手伝いで参加するの。
会えるといいね?」
カードを差し出し、お姉さんがニッコリ微笑む。
「う、うん…」
ボクは曖昧な返事をして、カードを受け取った。
自分の顔が、火照ってるのがわかる。
そっか…。
中等部からのお手伝いって、お姉さんなのか…。
なら、参加してもいいかな…。
仲間外れにされても、お姉さんといればいいし…。
ボクは“きょうりゅうのかがく”を鞄にいれて、署名を待つプリントを取り出した。
ゆり先生、まだ職員室にいるかな…?
- 一日目 〜はじめてのはじまりへつづく…
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