!!!はじめてのはじめ  ボクは踏み切り代をカンヌキに、引き戸が開かないようにした。  そうしてからまた、早川さんのとなりに座った。  飛び箱に座る早川さんは、ちょっと落ち着いてきたみたい。  さっきまで繰り返してた嗚咽も、もう納まってた。  だけど俯いた顔は、涙でぐしゃぐしゃのまま…。  なんとかしてあげたいね。その涙。  でも、ハンカチもタオルも持ってないし…拭くものなんて…。  仕方なしにボクは、着ていたシャツを脱いで、早川さんに差し出した。 「こ、これで我慢して」  早川さんは無言でそれを受け取ると、両手に拡げて、じ〜〜〜〜っと見つめ…。  バッと顔を埋めた。 「……」  なんかボクは、おパンツに顔を埋めたときのことを思い出しちゃう。  は、早川さんも…えっちな気持ちになっちゃうの…かな…? 「鈴代くんの匂いがするぅ……」  とってもイヤそうな声…。  なのにボクのおちんぽは、ピコンとしちゃった。  オ、オヤジくんに、今度教えてあげようか…。 「……」 //  早川さんは涙を拭きとると、くしゃくしゃに丸めたボクのシャツを膝に、また黙りこんじゃった。  早川さんは涙を拭きとると、ボクのシャツを膝に、また黙りこんじゃった。  月明かりのムスッとした横顔。  やっぱりかわいい。  だけど、少し腫れた頬が痛々しい…。 「濡れタオル、持ってくる?」  また抱きつこうとしたのか、早川さんは両手を拡げて、アワアワ、口ごもった。  そしてプイっとあさってを向くと、またムスッとした。 「……そ、そこの棚。ウェットティッシュ、とって。  後ろに隠してあるから」  ボクはくすっとしながら、いわれた棚を調べてみた。  ダンボール箱の後ろに、ウェットティッシュのボトルと、ティッシュ箱があった。 「えっちの後始末に使うから、常備してあるの」 「そうなんだ。知らなかった」  澄子ちゃんとしたときは、ボクは酔いつぶれて、後始末をしなかったしね。  ボクは両方とって、早川さんの側に置いた。 //  早川さんはティッシュでかるく鼻をかみ、ボクはウェットティッシュを何枚か重ねて折って、それを渡した。  早川さんはボロ布になったシャツを脱いで、綺麗な裸体を月明かりに浮かべてた。  早川さんはティッシュでかるく鼻をかみ、ボクはハッとすると、ウェットティッシュを何枚か重ねて折った。 //-- 「こ、こんなのがあるなら、シャツはいらなかったね」  ボクはそっぽのままの早川さんに、ウェットティッシュを差し出した。 {{ref_image "26.jpg"}} 「あ、……ありがとぅ…」  横顔の目だけがチラッと向いて、またそっぽに戻っちゃった。 「シャツ、洗って返すから。  しばらく貸してて」  そこまでいうと、早川さんは慌ててボクに顔を向けた。 「ヘ、ヘンなコトに使わないからねっ!  か、勘違いしないでよねっ!」 「ヘンなコトって…」  またおパンツのことを思い出して、ボクはぷっと吹き出しちゃった。  早川さんは決まりわるそうに顔を真っ赤にすると、口を尖らせて、ぷうっとふくれた。  そんな早川さんがすごくかわいくて、ボクのおちんぽはピコンっ! //  ボクは慌てて、早川さんに背を向けた。  今度はボクが、慌てて早川さんに背を向けた。 //-- 「え、えーと…。  話しがあったんだよね?  なんの話し?」  ゴマかすように、ボクは話しを切り換えた。 「週刊・きょうりゅうのかがく」  不機嫌そうに、それだけ。  早川さんの話しは、いつも唐突だね。  ボクにはなんのことやら、サッパリだよ。 「早く返してよね」  どうやらボクが借りてる図書室の本を、早く返せといってるみたい。 「えーと…それだけ?」 「そうよ。  他にナニがあるっていうのよ?」  他にもイロイロあると思うけど…。 「図書室で借りようとすると、いつもアンタが借りてる。  ずっと、一番最初は、あたしだったのに…」  それは入荷すると、春子お姉さんが取り置きしておいてくれるから…。  そういおうとして、ボクはマジマジ、早川さんを見つめちゃった。  だってどう見たって、早川さんと“きょうりゅうのかがく”なんて、絶対結びつかないもの。  それにボク以外に、あの本を楽しみにしてる子なんて、はじめてみた。 「恐竜、好き?」  ボクはおそるおそる聞いてみた。 「……」 「なにが一番好き?」  チラっと、ボクを一瞥。 「スージー…」  ポツリと早川さんがいうと、ボクはうれしくなっちゃった。 「ボクも好きだよ。  ティラノサウルスっ!」  早川さんの頬が緩んだ。  “スージー”っていうのは、ティラノサウルスの固有名詞。  いってみれば個人名なんだ。  アメリカで見つかった、はじめてのティラノサウルスの全身骨格化石。  そのお陰で、いままでわからなかった、イロイロなことが明らかになったんだ。  恐竜好きなら大抵知ってることだけど、ボクの周りには、残念ながらひとりもいない。  だから早川さんから、“スージー”って名前が出てくると、ボクはとてもうれしくなっちゃったんだ。 「ねぇ、スージーの、どんなトコが好きなの?」 「ひ、ひとことじゃいえないわよ…」  早川さんはテレるみたいに口ごもった。  それでもボクは、ワクワクしながら、早川さんの言葉を待った。 「そ、そうねぇ…ロマンね。  ロマンを感じちゃったのよっ!  暴れん坊の冷血暴君だと思ってたのに、実はみんなに慕われる、やさしいお母さんだった、なんてね!」  早川さんは、思い出し笑いみたいにクスっとした。  よかった。少し、機嫌がよくなったみたい。 「それで、それで?」  ボクが話しを即すと、早川さんはポツポツ、スージーの話しをしだした。 //  ボクはそれに相槌をうちながら、ワクワクして耳を傾けた。  知ってることばかりだったけど、それでも全然、退屈じゃなかった。  早川さんの話しは、早川さんなりの解釈や想像が多くて、それがまたボクの考えとちがってるんだ。  女の子っぽいっていうのかな?  とても興味深くて、新鮮だった。  他の子とだと、カッコイイとか、強そうとか、そんな程度で、すぐに話しは途切れちゃってたしね。 //--  きっと早川さんも、そんな感じだったんだと思う。  ボク同様、話せる相手が見つかって、とても嬉しかったんだろうね。  すっかり機嫌がよくなって、キレイな瞳を爛々と輝かせてた。 「あたしもいつか、アメリカに行って、スージーみたいな恐竜を探し出すんだ…」  座ったまま足をプラプラさせて、早川さんは天井を見つめてた。  そんな仕草で夢を語る早川さんは、みとれるくらい、かわいい…。 「アンタ、頬が腫れてるじゃない」  桜色の唇がそういって、ボクはドキッとしちゃった。 「こっち向けて」  そういうと早川さんは、ウェットティッシュを取り出した。 「あ、うん…」  ボクはちょっとテレる気持ちで、早川さんに頬を向けた。 「そっちじゃないっ!  殴られた方っ!」 「あ。ごめん…」 「まったく、もう…なに期待してんのよ…」  ブツブツ呟きながら、早川さんはボクの頬に、ウェットティッシュを当ててくれた。  ちょっとヒリッとしたけど、ボクは我慢した。 「血でてない?」  心配そうな早川さんに、ボクはあさっての方へ目を向けてた。 「んと…口の中…切ってるみたい…」 「そ。一週間もすれば治るわよ」 「ニベもないね…」 「当たり前じゃない。  “鈴代くん、かっこよかったよ〜?  アタシ、おまんこ、キュンしちゃった〜。  お礼にえっちしてあげるぅ〜♪”  なぁ〜んて、いうと思った?」 「あぅ…」  おちんぽもションボリ…。 「そんなコトしたら、美代ちゃんに殺されちゃうわよ…」  早川さんはポツリと呟いた。  早川さん、ボクが美代ちゃんにフラれたこと、まだ知らないのかな…? 「まぁ、だいじょうぶだと思うけど…」 「アンタ、美代ちゃんのこと、なぁんにも知らないのねっ!」  早川さんは腰に両手を当てると、心底呆れた声を出した。 「美代ちゃん怒ると、ものすごくコワイのよ」 「そうなの?」 「前に美代ちゃんがお気に入りの消しゴムを、ちょこっとだけ使っちゃって。  美代ちゃん、一カ月も口をきいてくれなかったのよ?」 「へー…」  そんなふうに怒るんだ…。  美代ちゃんが怒るなんて無さ……いや、なんか心当たりが…。 「いくら謝ってもダメ。  なにをしても、ぜんっぜん、ダメっ!」 「それで? どうしたの?」  早川さんと美代ちゃん、つい昨日までは仲良く話しをしてたよね。  じゃ、一度は仲直りしたってことだよね? 「どうもしないわよ。  仲直りの方法なんて、知らないもの」  フッとため息をつくと、早川さんは頬杖をついた。 「だから今度こそ、もう仲直りできないわ…」  それは絶望しきったような、寂しそうな呟きだった。 「食堂勝負のこと…?」 「そうよ。  いくら嫉妬したからって…あんなことさせて…」 「嫉妬って…? ダレへの…?」  早川さんは糸みたいな目で、ボクを見つめた。  そしてなんだか、深いため息をついた。 「ふぅ…。  まったく…アンタに関わると、ロクなコトないわよ…」  いや、アレは早川さんが原因じゃないかな…?  そう思うと、ボクはなんだか、笑いが込み上げてちゃった。 「ふふふ。  だいじょうぶだよ」 「なにが、“だいじょうぶ”なのよ」  早川さんはぶすっと、おもしろくなさそうな声でいった。 「いまさっきのことも、きっと大丈夫。  わるい方には転ばないよ。  食堂勝負のことも、気にすることないよ。  お陰でボクは、清太くんたちと仲良くなれたし。  みんな、早川さんのお陰だよ」  突然の感謝の言葉に、早川さんは目をパチクリさせてた。 「早川さんのお陰で、ボクは気持ちよくなれたし。  早川さんのお陰で、ボクは友達の作り方を覚えた。  きっと早川さんがいないと、ボクはダメ人間なんだねっ!」 「……わ、わかってるじゃない…」  早川さんはテレたように、ぷいっとあさってを向いた。  あはは。立花先生のいうとおりだね。  早川さんは、すごく不器用なんだ。  仲良くなることは知ってても、仲直りは知らない。  好きは知ってても、伝える方法を知らない。  ボクも人のことはいえないけどね。 // 「うふふ。  ありがとう、早川さんっ!」 「……ど、どういたしまして…あけましておめでとう…」  伝えたかった言葉をボクがいうと、早川さんは頬を赤らめて、ゴニョゴニョと口ごもった。 //--  なんでだろ。  こんな側にいるのに、胸がキュッとして、…切なくなっちゃう。  そっか。ゆり先生のいってた“切ない”って、コレなんだね…。  もっと近くにいたい。  もっと早川さんのことを知りたい。  もっとボクのことを知ってほしい。  たぶんボクは、早川さんのことが好きになってるんだと思う。  かわいくて、気になって、好きになって、えっちしたくて堪らなくなっちゃってる…。 「は、早川さん…?」 「鞘子でいいわよ。そう呼んで」 「さ、さや…ちゃん…」 「うふふ。なあに? 鈴代クン?」  からかうみたいに、早川さんは微笑んだ。 「えと。ボクも、名前でいいよ」 「イ・ヤ」  キッパリいわれて、ボクはちょっとショック…。 「な、なんで?」 「だって“はじめちゃん”じゃ、赤ちゃんみたいだし。  “はじめくん”じゃ、頼りないし。  第一マンガのキャラクターみたいじゃない。  だからって“はじめさん”は論外ね。  病院の受け付けみたいだもん」  うぅぅ…。おとうさん、おかあさん、はじめてうらむよぉ…。 「でも…」  躊躇うようにそこで区切ると、早川さんは唇に指をあてた。 「“はじめ”、ならいいかもね…」  恥じらうように、そういってくれた。 「ホント?!」 「なんか、ホラ、命令するみたいな〜?  犬を躾けてるっぽいっていうか〜」  ニッコリ、人指し指を振り振り、早川さん。  さっきの恥じらいはなんだったのぉ〜? 「あぅ…ボク、犬なの〜?」 「そうよ」  さらっと肯定。 「これからはね、“ハジメッ!”っていわれたら、あたしのために、一生懸命、腰を振るの。  それはそれは、サカッた犬のようにね!」  サカッた犬って…。 「わかった?」 「うぅ…なにそれぇ……」  えっちする気が萎えちゃったよぅ…。 「返事は〜?」  ニラみつける、早川さんの目がこわい。 「…は〜い……」  ボクは仕方なく、イヤイヤ返事をした…。 「そんじゃ、いくわよ? いい?  ほら、シャンとして、目を瞑って…」  う〜。すっかりご主人さま気取り…。  ボクはいわれたとおり、目を瞑って、命令口調の自分の名前を待った。 「はじめ…えっち、シよ?」  耳をくすぐる、甘く、やさしい囁き…。  目を開けると、さやちゃんが、はにかんだように笑ってた。 「さやちゃん…好き…」  自然と出てきた言葉に、目の前の女の子はニッコリ、笑ってくれた。 // 「うんっ! あたしも、大好き…」 「うんっ! あたしも…」 *[[◆エピローグ 〜はじめてのバイバイ|萌え小説 epilogue]]へつづく… {{include hatu26・コメ}} {{category 本編,本文,nolink}}