!!!ガンスと人魚姫 {{category 本編,鋼鉄の人魚・アクア,nolink}} !■人魚姫の玉室に入ると、そこにはさわやかな笑顔の男がいた。 {{ref_image le_bath01a_b.jpg,pic}} 「やあ、ハンス(仮名)」 「ガ、ガンス……!」  年の頃はハンス(仮名)と同じくらい。  高貴で端正な顔立ちは、誰から見ても、ひと目でどこかの王子と解る。  どこぞの“元”王子とはえらい違いである。 「知り合い?」 「知らない、知らない、知りたくもない!」  飛び猫の問いに、ハンス(仮名)はぶるん、ぶるんと首を振る。 「ひどいなぁ、ハンス(仮名)。  何年も会っていないとはいえ、従兄弟じゃないか」 「従兄弟ッ?! ハンス(仮名)の?!」  飛び猫の前足を取り、ガンスが微笑む。 「はじめまして。  僕はハンス(仮名)の従兄弟のガンス。  ハンス(仮名)?  こちらのかわいいレディを紹介してくれないかな?」 「ま、かわいいだなんて…」  ポ〜とノボせる飛び猫・ニーヤは、両目がハートマーク状態である。 「飛び猫。陰険。いじわる。ヒステリー。噛みつき魔」  ハンス(仮名)が憮然というと、ガンスは大げさに目を丸くした。 「そうなの?」 「そんなことをするのは、姫さまにワルサする無粋な男にだけ。  あなたのような素敵な方には、おやすみのキスをするくらいですわ」 「こんな風に?」  にっこりと微笑み、手に取っている前足にキスをする。 「失礼。あまりにもあなたが健気なものだから」 「そんな…」  ジンマシンの出る思いで、ウゲーッとハンス(仮名)が舌を出す。  しおらしく俯く飛び猫が、ハンス(仮名)の向こうずねを蹴った。 「イタイッ!!」 「ほほほほほッ!」  スネを抱えるハンス(仮名)を、飛び猫は笑ってゴマかす。  ガンスはクスリと微笑み、人魚姫へ目を向けた。 「こちらがウワサに名高い、人魚姫だね?」 「そうだよ。 //  “意識を封印”されていて、“婚約者の”ボクでも、“滅多に”話しができないんだ。  “意識を封印”されていて、'''婚約者の'''ボクでも、'''滅多に'''話しができないんだ。  '''残念だねぇ〜〜〜'''」  片足でハネながら、ハンス(仮名)は“婚約者”と“残念”を特に強調した。 「ひと目だけでも、と思って来たんだが…。  この美しさを目の当たりにすると、欲が出る。  一言だけでも交わしたかったな…残念だよ…」  肩を落として、ガンスが呟いた。 「はっはっはっは。  ホントに'''残念'''だったな、ガンス〜。  なんてったって、'''婚約者のボクでさえ'''……」 //  ゆっくりと目覚める人魚姫に、ハンス(仮名)の言葉がとぎれた。  ゆっくり目覚める人魚姫に、ハンス(仮名)の言葉は蝋燭の火のように消えた。 //-- 「おおッ!」  目覚める人魚姫に、ガンスはオーバーな感嘆の声をあげた。 {{ref_image 00-04-2.jpg,マーメイド00-4}} 「こちらの方は? ハンス(仮名)?」  飛び猫が、ぴょんと人魚姫の膝に飛び乗る。 「ハンス(仮名)の従兄弟、ソンデ国のガンスと申します。人魚姫さま」  ガンスが人魚姫の手を取り、その甲に軽くキスをした。  しかし飛び猫は、ガンスになにもしようとしなかった。  普段なら手を取っただけで、牙を向いて飛び掛かるというのに…。 「以後、お見知りおきを」  キラリとガンスの前歯が光る。 「覚えておきましょう」  人魚姫は、にっこりと微笑みを返した。 「あ〜ッ! あ〜ッ!  ズルイ!  エコひいき〜ッ!!」 「ハンス(仮名)? お客さまですよ」  地団駄を踏むハンス(仮名)を、人魚姫は作り笑いでたしなめた。  ガンスへの微笑とは、エライちがいである。 「ボクだってしたコトないのに……」  ハンス(仮名)は、クラッカーのような涙を垂らした。 「本当に美しい…」  ガンスは人魚姫を見つめ、吐息混じりに呟いた。 「あなたの美しさはユリさえも恥じて、その白い花びらをもって、顔を隠してしまうことでしょう。  しかし残念でならないのは、あなたが従兄弟のハンス(仮名)の婚約者であること……」  ガンスは端正な顔だちを、哀しげに曇らせる。  人魚姫はそんなガンスに、桜色の微笑を与えた。 「どなたが、わたくしの婚約者ですの?」 「ボクだよ、ボク、ボクッ!  約束忘れたの〜?!」 「未だ、わたくしの心に春を告げた者は、おりませんよ」  その言葉は、ぎゃー、ぎゃーと泣き叫ぶハンス(仮名)に、ぐっさし突き刺さった。  ガンスの顔が明るく輝く。 「春の日差しのような、その微笑みの暖かさ…。  わたくしの心を縛る霜華も、熔け落ちてしまいました。  わたくしを候補のひとりとして、迎えてはくださいませんか?」 「期待しておりますよ、ガンス」 「お任せください。  このガンス、必ずや東風となって、姫さまの心に春を告げましょう!」  ガンスの歯の浮くような台詞が、寒風となってハンス(仮名)の背筋をゾワゾワさせた。 「“封印”の時間が来たようです。  ガンス、またお話しがしたく思います」 「そんな、もったいない。  姫さまに感謝の言葉は似合いません」  人魚姫はただニッコリと、桜色の微笑みを返した。 「ハンス(仮名)」  人魚姫に名を呼ばれると、茫然自失だったハンス(仮名)はぴくっと反応した。 「なになになになになに、姫さま?!」  まるで尻尾を振る小犬のようである。  人魚姫はそんなにハンス(仮名)に、にこやかな微笑を作った。 「飛び猫からの報告、よくよく、聞いています。  わたくしのコトを気にすることはないのですよ」  ハンス(仮名)の胸に、人魚姫の微笑がツララのごとく突き刺さる。 // “わたくしにはガンスがいるから、気しなくていいのよ” “わたしにはガンスがいるから、あなたはお好きな方とどうぞご自由に” //--  その微笑みはそういっていたのである…。 「というわけだ。  悪いな、ハンス(仮名)!」  うなだれるハンス(仮名)の肩を、勝ち誇ったガンスがポンと叩いた。 !■ニーヤはルンルンとし、ハンス(仮名)はガックシ、フラフラ、うなだれていた。 {{ref_image ni_corridorB01_a.jpg,pic}} 「ねぇ、ねぇ、ニーヤ?  東風って、なに?」 「春風のたとえね。  ガンスは、姫さまをホレさせる、っていったのよ。  ロマンよね〜」 「ロマンねぇ……」  うんざり顔のハンス(仮名)に、ニーヤは溜め息をついた。 「あんたもさ、一言ぐらい、そんな台詞いってみなさいよ」 「ボクには無理だよ。  入れ歯じゃないもん」 「ガンスって、入れ歯なの?」 「だから、浮くような歯がないんだよ」 「やぁ〜ねぇ〜。  男の嫉妬って!」 「嫉妬じゃないって!  アイツはね、信用なんかできるようなヤツじゃないんだよ!!」 //-- 「はい、はい」 //  飛び猫は、まったく相手にしない。  飛び猫は、ヤレヤレと肩をすくめた。 //-- 「ホントだってば!!」  ハンス(仮名)は立ち止まって、声を張り上げた。 「アイツのやったイタズラは、み〜んな、ボクのせいにされてたんだから。  ボクの国が危機に陥った時だって、親戚なのに、助けてもくれなかったんだよ?」 「当たり前でしょ?!  誰かさんの放蕩で傾いた国なんて、誰が助けるのよ!」  そういわれてハンス(仮名)は、プイッと口を尖らせた。 「……もう、いいよ。  絶対、アイツの化けの皮を剥がしてやるんだ!!」 //{{counter2 mer03Count}}